理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-16
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一般口述発表
中高齢女性における立位姿勢アライメントと背部筋の筋厚および筋内脂肪との関連
正木 光裕池添 冬芽福元 喜啓塚越 累南 征吾山田 陽介木村 みさか市橋 則明
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抄録

【はじめに、目的】 加齢に伴い立位姿勢アライメントは脊柱後彎や骨盤後傾が増加する。この姿勢アライメントは体幹屈曲筋力とは関連がみられず,体幹伸展筋力と関連があることが報告されている(Kim 2006, Sinaki 1996)。さらに,脊柱・骨盤を中間位に保持した姿勢は,脊柱後彎・骨盤後傾が増加した姿勢よりも腰部多裂筋や腰腸肋筋の筋活動量が高いことが報告されており(O’Sullivan 2006),脊柱・骨盤中間位のアライメントと背部筋との関連性が示唆されている。このように加齢に伴う脊柱後彎・骨盤後傾変化は背部筋の筋機能低下が関連していると考えられている。 我々は近年,超音波画像診断装置を使用した研究により,加齢により骨格筋の筋輝度は増加する,すなわち筋内の脂肪組織の増加といった骨格筋の質的変化が生じることや,この質的変化は中高齢者の筋機能に影響を及ぼすことを報告した(Fukumoto 2011,Ikezoe 2012)。しかし,加齢による背部筋の量的・質的変化が姿勢アライメントに影響を及ぼすのかについて詳細に検討した報告はみられない。本研究の目的は,中高齢者における立位姿勢アライメントと背部筋の量的・質的変化との関連性について明らかにすることである。【方法】 対象は地域在住の中高齢女性38名(平均年齢72.6±7.8歳)とした。超音波診断装置(GE ヘルスケア社製LOGIQ Book e)を使用し,安静臥位での腰腸肋筋(ES),腰部多裂筋(MF),大腰筋(PM)の横断画像を撮影した。8MHzのリニアプローブを使用し,ゲインなど画像条件は同一設定とした。得られた画像から筋厚,また画像処理ソフト(Image J)を使用し,各筋の筋輝度を算出した。なお,筋輝度は0から255の256段階で表現されるグレースケールで評価され,値が大きいほど高輝度で筋内脂肪などの非収縮組織が増加していることを意味する。筋厚,筋輝度ともに右左の平均値を使用した。姿勢アライメントの測定にはSpinal Mouse(Index社製)を用い,安静立位での胸椎後彎・腰椎前彎・仙骨前傾角度を求めた。統計学的検定として,ピアソンの相関係数を使用し,姿勢アライメント(胸椎後彎・腰椎前彎・仙骨前傾角度)と年齢,筋厚,筋輝度との関係性を検討した。さらに,姿勢アライメントを従属変数,相関分析の結果でp値が0.10未満であった筋厚および筋輝度を独立変数とした重回帰分析を行った。全ての統計の有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究内容についての説明を行い,書面にて同意を得た。なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 安静立位時の姿勢アライメントは,胸椎後彎角度35.7±13.4°,腰椎前彎角度12.6±7.3°,仙骨前傾角度3.2±5.2°であった。胸椎後彎・腰椎前彎・仙骨前傾角度と年齢との間にはいずれも有意な相関がみられなかった。 胸椎後彎角度と筋厚,筋輝度との間における単相関係数は,ESの筋厚r=-0.45(p<0.05),筋輝度r=0.08(p=0.61),MFの筋厚r=-0.11(p=0.50),筋輝度r=0.08(p=0.64), PMの筋厚r=-0.32(p=0.05),筋輝度r=0.15(p=0.38)を示した。腰椎前彎角度では,ESの筋厚r=0.14(p=0.39),筋輝度r=0.19(p=0.25),MFの筋厚r=0.18(p=0.27),筋輝度r=-0.07(p=0.70), PMの筋厚r=0.31(p=0.06),筋輝度r=-0.26(p=0.12)を示した。仙骨前傾角度では,ESの筋厚r=0.33(p<0.05),筋輝度r=0.15(p=0.37),MFの筋厚r=0.13(p=0.45),筋輝度r=-0.31(p=0.06), PMの筋厚r=0.48(p<0.05),筋輝度r=-0.38(p<0.05)を示した。 また,重回帰分析の結果,胸椎後彎角度に影響を与える有意な因子としてESの筋厚(標準偏回帰係数=-0.39)が抽出され(決定係数=0.22),仙骨前傾角度に影響を与える有意な因子としてPMの筋厚(標準偏回帰係数=0.42),MFの筋輝度(標準偏回帰係数=-0.31)が抽出された(決定係数=0.38)。【考察】 中高齢女性の立位姿勢アライメントと背部筋の筋厚・筋輝度との関連性について重回帰分析で検討した結果,ESの筋厚が減少するほど胸椎後彎角度が増加し,PMの筋厚が減少,MFの筋輝度が増加するほど仙骨前傾角度が減少することが示された。これらの結果から,中高齢女性の胸椎後彎の増加には脊柱起立筋の筋量減少,骨盤後傾変化には大腰筋や多裂筋といった深部筋の筋量減少や筋内脂肪増加が関連していることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究は,中高齢女性における胸椎,骨盤のアライメントには,背部筋の量的・質的変化が関連していることを明らかにした研究であり,姿勢アライメントの改善に対する運動療法の確立に向けて研究が発展することが期待される。

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© 2013 日本理学療法士協会
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