抄録
【はじめに、目的】人工膝関節全置換術(以下TKA)は、術後の屈曲角度の獲得がADLへ及ぼす影響は非常に大きく、十分な可動域が獲得されなければ患者の満足度が得られない状況が発生する。また、術後の獲得角度においてはセラピストの知識やハンドリング技術に依存する部分も多い反面、術式や術中の操作因子にも依存する。当院では年間約50例のTKAを施行しているが、全ての患者が十分な屈曲角度を獲得しているとは言えず、術後QOLに多大な影響を及ぼしている。術後可動域に及ぼす因子は術前可動域や術前大腿脛骨角度(以下FTA)など多数報告されているが、それらの数値が比較的良好にも関わらず、術後に可動域の拡大に難渋するケースも少なくない。本研究では術後急性期より早期に可動域の獲得を行うべく、インサート後傾傾斜角度に着目した分析を行った。TKA術後の可動域制限を無くすことで術後QOLをより改善するため、可動域に影響が出る因子を分析し理学療法の一助とすることを目的とし、その結果を踏まえ考察を加え報告する。【対象と方法】対象は2008年4月1日~2011年3月31日の間に当院に入院しTKAを施行した患者75例を抽出し、そのうち20名を無作為に選択し対象とした。内訳は、男性5名、女性15名。平均年齢71.5歳±7.43歳であった。使用された機種は1.MDMバランスドニーシステム 2.Smith&nephew Geneshis 3.デピュージャパン シグマ人工膝関節システム 4.ナカシマメディカル FINE TotalKneeSystemの四種類であった。測定方法は、当院PACSシステムを用いて、TKA術後単純レントゲン矢上面画像上でFTAを計測。次に脛骨長軸を計測し、そこからインサート後傾角度PPTA(Proximal Posterior Tibial Angle)を計測した。また、入院中の理学療法情報から、術前角度・術後角度をそれぞれ調査した。術後屈曲角度とインサート後傾傾斜角度との関係を、また、術後屈曲角度と術前伸展角度・術前屈曲角度・術後伸展角度それぞれの関係をPearsonの相関係数を用いて検討した。【倫理的配慮】使用した単純レントゲン画像は術後診察用に撮られたものを使用した。ヘルシンキ宣言に考慮し、当院倫理委員会規定に則りデータ集計を行った。【結果】インサート後傾傾斜角度平均は4.45°±3.10°であった。術前平均伸展角度は10.5°±11.8°、術前平均屈曲角度は121.5°±21.4°、術後平均伸展角度は1.0°±2.6°、術後平均屈曲角度は123.8°±11.3°であった。結果、術後屈曲角度とインサートの後傾傾斜角度においては相関が認められなかった(r=0.16)。術後屈曲角度においては術前伸展角度(r=0.61)・術前屈曲角度(r=0.73)・術後伸展角度(r=0.49)とそれぞれにおいて相関が見られた。【考察】脛骨インサートの傾斜角度は使用機種により0°3°5°に設定されており、実際の角度設定は執刀医の采配による部分が大きく、術前の可動域に配慮した明確な基準は存在していない。今回はこの部分に焦点を当て対象を調査・分析した結果、後傾傾斜角度には0°~11°の幅が見られたが術後屈曲角度との相関は認められなかった。先行研究により、インサートの後傾傾斜角度が手術一年後の屈曲拘縮を形成する因子となる可能性があることが報告されている。今回の結果では、インサート後傾傾斜角度との関係を見いだすことは出来なかったが、使用する機種により、インサート後傾傾斜角度の設定基準が異なる事実があり、本研究においては1.対象とした患者に使用している機種にばらつきが見られたこと、2.インプラントtype(PS・CR)に群分けしていないこと、3.使用したレントゲン画像の矢状面角度に僅かな誤差が存在している可能性があるため、微妙な傾斜角度の測定にばらつきが存在していることなどが問題点として考えられた。今後、以上の問題点を再考し、急性期からの可動域獲得に向けた理学療法評価の一つとして確立するべく、この点に配慮した測定方法を検案し、対象人数を増やした上で再度研究を進めていきたい。また、術前可動域が良好にも関わらず、術後の可動域に制限が出てしまうケースに関しては他の要素も検案し再検討する必要性も考えられた。【理学療法学研究としての意義】TKA術後屈曲角度の獲得に関しては、様々な因子が存在し、術式やインプラント設置構造の影響、リハビリテーション介入時の直接の影響が考えられる。リハビリテーションを遂行していく上において、多角的視点から問題点を研究・考察し日々の治療に関わることが重要であると考える。