抄録
【目的】 近年,人工膝関節置換術後患者において,患者立脚型アウトカムを用いた評価が主流となっている.Behrendら(2012)は,健常者と同様に,日常生活において手術した関節を意識しないでいることが「究極のゴール」であるとしており,その評価尺度としてForgotten joint score(FJS-12)を開発した.日本においても手術した関節を意識せず生活できることは,臨床成績において着目するべき点である.FJS-12はWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)との基準関連妥当性が示されている.しかし,外的基準に用いたWOMACは,天井効果が指摘されており,術後一定期間を経過した患者や身体活動量の高い患者においては十分に評価できないとの報告がある.今回の研究の目的は,日本語版FJS-12(JFJS-12)を作成し,天井効果が無く活動性の高い術後患者を評価することができる日本語版High-Activity Arthroplasty Score(JHAAS)を外的基準として用い,膝伸展筋トルク,膝関節可動域,QOLに対する満足度を含め調査することで,本邦における再現性と妥当性を検証することとした.【方法】 FJS-12を2名の理学療法士により日本語に翻訳し,本邦において妥当な内容に修正した.修正した質問票を英語に精通した者が再度英語に翻訳し,パイロット版FJS-12として原作者の了承を得た.FJS-12は就寝時,歩行,長時間立位,階段昇降,床からの立ち上がり,スポーツ活動中などの12項目の日常生活動作について,「手術した膝をどのくらい気にしていますか?」という質問に対し,5段階のリッカートスケールを用いて回答する方法である.合計得点を100点に換算し,得点が高いほど意識していないことを示す.予備調査として,当院で初回人工膝関節全置換術(TKA),単顆置換術(UKA)を受けた患者24名を対象とし,質問票に回答するにあたり,文章表現,回答の負担についてコメントさせ,回答にかかる時間を測定した.再現性については,2 週間以内に同一患者に再調査を行った.統計解析は,級内相関係数とBland-Altman plotを用いて系統誤差の有無を判断した.妥当性については,2012年9月から10月の期間において横断調査を行った.対象は術後2ヶ月を経過したTKAまたはUKA術後患者,片側,両側置換術者とした.除外基準は,重篤な心疾患,中枢神経疾患,膝関節以外の骨・関節の手術既往を有する者,認知障害を有する者とした.外的基準は,1)JHAAS,2)日本語版WOMAC疼痛項目(WOMAC-P),身体項目(WOMAC-F),3)等尺性膝伸展筋トルク(伸展トルク),4) 膝関節屈曲可動域,伸展可動域,5)QOL満足度とした.調査方法は日本語版WOMAC を測定した後,JHAAS およびJFJS-12を手渡し,2週間以内に返送させた.JHAASは身体活動を歩行,走行,階段昇降,余暇活動の4 つのドメインに分け,自身が達成できる最も高いレベルの身体活動を回答させる自記式の質問票である.3)はハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社,μ Tas-F1)を用いて測定した.4)は東大式角度計を用い5度刻みで測定した.5)は11段階のglobal rating scaleを用いた.統計解析はJFJS-12のヒストグラムを描画してデータの分布を確認した.さらに,JFJS-12とJHAAS,日本語版WOMAC,伸展トルク,膝関節可動域,QOL満足度の関連をみるためにピアソンの積率相関係数を用い,単相関分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 対象には事前に研究の趣旨を説明し,同意を得た.【結果】 質問票を121名から回収した(回収率80.7%).対象者の属性は,男性20名,女性101名,TKA 72名,UKA49 名,片側55名,両側66名,年齢[平均値±標準偏差(範囲)]72.1±7.9(52-90)歳,BMI 25.2 ±4.2(17.1-36.7)kg/m ²,術後経過月数は2-110ヶ月であった.再現性について,級内相関係数は0.894-0.960であり,Bland-Altman plotからも系統誤差は確認されなかった.回答に要する時間は1-5分であった.ヒストグラムから天井効果,床効果は認められず,正規分布が確認できた.単相関分析の結果,JHAAS(r=0.560),WOMAC-P(r =0.375),WOMAC-F(r=0.462),伸展トルク(r =0.417),膝関節屈曲可動域(r=0.235),QOL満足度(r=0.383)で相関を認めた.【考察】 今回,JFJS-12の再現性および妥当性が確認された.活動性が高く,伸展トルク,膝屈曲可動域が良好な患者において,日常生活で手術した膝を意識しないで生活でき,さらに,QOLに対し満足していることが確認された.JFJS-12 は短時間で実施でき,無回答者が少ないことから,実用性が高い尺度であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 健康な関節と同様,日常生活で意識されていない関節は術後患者のQOL満足度につながり,科学的根拠に基づき作成された評価尺度を用いることは,臨床成績,治療効果を判定する上で意義は深いと考える.