理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-11
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一般口述発表
手関節運動指令解析システムを用いた運動障害の客観的評価法
大脳梗塞患者と小脳梗塞患者の回復過程の追跡
森本 達次松本 有史中西 亮介西村 翔太岡 英世岡田 如弘李 鍾昊筧 慎治岡田 安弘
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抄録
【はじめに、目的】脳卒中などによる運動障害の客観的評価法の確立はリハビリテーションの方針を立てるためにもその回復過程を評価するためにも極めて重要である.本研究においては,手関節の定量的運動指令解析システム(Lee et al. 2007)を用いて,大脳梗塞患者と小脳梗塞患者の一症例についてのリハビリテーション実施中の回復過程を追跡し,客観的・定量的に評価できるかを検討した.【方法】症例1は右脳梗塞(頭頂葉,被殻)による左片麻痺を発症4週後,当院に入院した39歳男性(MMSE30点).BRSは左上肢Ⅳ,左手指Ⅳ.MAS(左手関節)は1であった.症例2は小脳梗塞(右小脳後葉半球部)を発症4週後,当院入院した78歳男性(MMSE23点)で,右上下肢協調性障害を呈し, MAS(右手関節)は0であった.この2症例に対して手関節のリハビリを1日60分行い,症例1に対しては,リハビリ開始前,1ヶ月後,2ヶ月後,3ヶ月後において,症例2に対しては,リハビリ開始前,1ヶ月後,3ヶ月後において,定量的手関節運動指令解析システムを用いて手関節運動の客観的評価を行った.本システムは,カーソルと目標が表示されているPC画面の前に座り,前腕を支持台の上に載せ,手関節マニピュランダムを操作する.マニピュランダムにはX,Y方向の2個のセンサーが設置され,手関節のX,Y方向への動きの軌跡がPC画面上に表示される.被験者は等速でなめらかに動く指標を追跡する手関節運動を行う.ターゲットとしては右手関節の場合数字の2の形,左手関節の場合数字の2の左右逆形の軌道を描きながら動き,被験者に動いている目標の中にカーソルを保ち続けるように指示する.これを10回施行し,指標追跡率,予測制御,フィードバック制御を計測した.指標と完全に一致した予測制御は低周波数の領域(<0.5Hz) に集まり,高周波成分(>0.5Hz)では指標との誤差と関係が深いフィードバック制御の成分が残ることになるため,両者をフーリエ解析で分離した.低周波成分では,指標との差(予測エラー)を予測制御とし,高周波成分は予測エラーとフィードバック成分の割合(誤差修正の割合)をフィードバック制御として評価した.統計学的手法としてはそれぞれの時期の各パラメータの平均値を比較するため分散分析を行い,その後多重比較を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】幸生リハビリテーション病院,加古川脳神経・認知リハビリテーション研究センターの倫理規定に基づき,対象者に本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分に説明し,その上で同意を得られたものに対して実施した.【結果】症例1では,左手関節運動による指標追跡率において,リハビリ開始前35%だったものが,1ヶ月後73%,2ヶ月後96%,3ヶ月後97%と2ヶ月後までは有意な上昇(p<0.05)が認められた.予測制御においては,平均予測エラー(角度差)がリハビリ開始前4.9度だったものが,1ヶ月後1.6度,2ヶ月後0.9度,3ヶ月後0.7度と有意な減少(p<0.05)が認められた.フィードバック制御においては,誤差修正の割合がリハビリ開始前0.21だったものが,1ヶ月後0.49,2ヶ月後0.58,3ヶ月後0.63と2ヶ月後までは有意な上昇(p<0.05)が認められた.症例2では,右手関節運動による指標追跡率において,リハビリ開始前67 %だったものが,1ヶ月後83 %,3ヶ月後91 %と有意な上昇(p < 0.01)が認められた.予測制御においては,予測エラーがリハビリ開始前1.8度だったものが,1ヶ月後1.3度, 3ヶ月後1.1度と有意な減少(p < 0.05)が認められた.フィードバック制御においては,誤差修正の割合がリハビリ開始前0.49,1ヶ月後0.48,3ヶ月後0.48と有意差は認められなかった.【考察】大脳梗塞患者において入院後3ヶ月の過程で指標追跡率,予測制御が有意に改善し,入院後2ヶ月の過程においてフィードバック制御で有意な改善が認められた.小脳梗塞患者においても入院後3ヶ月の過程で指標追跡率,予測制御で有意な改善が認められた.フィードバック制御ではリハビリ開始前から3ヶ月後までで変化は認められなかったが,健常者(11名)の誤差修正の割合と比較してみると,健常者の割合が0.48で症例2の誤差修正の割合と比較しても差が認められなかった.このことから,症例2においては,最初からフィードバック制御は障害されていなかったことが考えられた.以上より,本システムを用いて大脳梗塞,小脳梗塞ともに運動障害の程度を客観的に評価することが可能であることが示された.今回は一症例ずつの評価であったため両疾患による運動障害の比較は困難であるが,症例を重ねることによって障害部位と症状の発現の関係性の評価につながると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本システムを用いて脳の損傷部位と症状との関係やリハビリ施行中の過程における障害改善の客観的評価に応用できることが明らかになった.
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© 2013 日本理学療法士協会
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