理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-11
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一般口述発表
脳卒中片麻痺者の上肢運動障害に対する視覚入力を用いた運動錯覚介入により即時的効果を示した症例
稲田 亨金子 文成松田 直樹岡和田 愛実柴田 恵理子小山 聡
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抄録
【はじめに,目的】 運動錯覚とは,実際は動いていないにも関わらず体性感覚入力や視覚入力によってあたかも運動をしているというような自覚的感覚が脳内で生じることである。この錯覚が生じている間に皮質運動関連領域の賦活化(Naito et al,1999., Romaiguere at al, 2003.)や皮質脊髄路の興奮性増大(Kaneko F et al, 2007., Aoyama T et al, 2010.)がこれまでの研究によって明らかになっている。視覚入力による錯覚(視覚的運動錯覚)は,四肢の上に設置したモニタに予め撮影した肢運動の動画を自分の身体と重なるように提示し観察することで誘起することができる。この視覚的運動錯覚の誘起によって,観察した動画にあわせた運動の錯覚感が生じ,更にその錯覚感に関与した主動作筋の皮質脊髄路の興奮性が増大することが示されている。また,脳卒中片麻痺者の運動麻痺は,左右半球の対立モデルから障害側運動野からの出力減少および非障害側運動野からの過剰な脳梁抑制によるものと示されている(Ward NS et al, 2004.)。これらのことから,視覚的運動錯覚誘起が脳卒中片麻痺者の障害側運動野からの出力を変化させ,随意運動回復に寄与する可能性があると期待できる。視覚的運動錯覚誘起による介入効果は,筆者らが第46回本学会(2011)において,健康成人を対象とし,短時間の関節固定中に生じる筋力低下を予防することができたことを報告した。しかしながら,脳卒中片麻痺者に対する介入効果は明らかになっていない。そこで我々は,脳卒中片麻痺者の上肢運動障害に対して視覚的運動錯覚誘起による介入を実施し,即時的効果を得たので報告する。【方法】[症例1]80歳代男性。《診断名》脳幹梗塞,左片麻痺。《現病歴》平成24年7月朝,自宅にて発症し,救急病院に入院。発症から16日後にリハビリ目的で当院入院。《視覚的運動錯覚介入時評価; 発症から132日目》SIAS: 運動機能;手指2点,上肢2点。筋緊張;2点。MMSE: 29点。[症例2]60歳代男性。《診断名》右被殻出血,左片麻痺。《現病歴》平成24年10月自宅にて発症し,救急病院へ搬送。発症から5日後にリハビリ目的で当院入院。《視覚的運動錯覚介入時評価; 発症から35日目》SIAS: 運動機能;手指0点,上肢0点。筋緊張;2点。MMSE:29点。 実験肢位は机上に前腕を置いた椅子座位とした。錯覚を誘起させるために,事前に撮影した健側手指屈伸運動の動画を用いた。そして,左右反転した動画を症例の患側前腕の位置と一致させて配置したモニタに提示し観察させた。介入は,20分間実施した。測定項目は,示指のMP関節,PIP関節,DIP関節の関節角度とし,介入前後に測定した。関節角度は,自動屈曲伸展運動の動画を録画し,画像解析ソフトにて開始角度および最大屈曲角度と最大伸展角度を求めた。この関節角度から関節運動範囲を算出した。屈曲運動範囲は,測定開始角度から最大屈曲角度までの範囲とした。伸展運動範囲は最大屈曲角度から最大伸展角度までの範囲とした。さらに,介入後に主観的な錯覚強度をビジュアルアナログスケ-ル(VAS)で評価し,加えて内観を聴取した。【倫理的配慮,説明と同意】  本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施した。また,症例にはヘルシンキ宣言に基づき,事前に目的等を書面にて十分に説明した後,同意の得られた者に対して介入を実施した。【結果】[症例1]屈曲運動範囲(介入前/ 介入後)は,MP関節; 31.7°/ 35.0°,PIP関節; 54.0°/ 69.4°,DIP関節; 33.9°/ 47.6°であった。伸展運動範囲(介入前/ 介入後)は,MP関節; 31.4°/ 37.0°,PIP関節; 68.7°/ 66.3°,DIP関節; 39.5°/ 47.6°であった。錯覚強度を表すVASは72mmを示した。介入後の内観は,「動画を観察中に手に神経が通っているような感じがする。」とのことであった。[症例2]屈曲運動範囲(介入前/ 介入後)は,MP関節; 0°/ 10.6°,PIP関節; 0°/ 16.3°,DIP関節; 0°/ 0°であった。伸展運動範囲は,介入前後とも伸展運動が困難だったため,測定不能とした。錯覚強度のVASは18mmを示した。介入後の内観は,「錯覚感はさほど強くなかったが動画にあわせて手指を動かすつもりで見ていたが,後半は動かしたくなるような気がした。」とのことであった。【考察】 本研究は,脳卒中片麻痺者の上肢運動障害に対する視覚的運動錯覚介入の即時的効果を示した初めての報告である。この結果は,視覚的運動錯覚介入が症例の皮質脊髄路の興奮性を変化させ,随意運動を促進したことから生じた可能性があると推察する。今後は,症例数を増やし,適用患者やより効果的な方法などを検討していく必要がある。【理学療法研究としての意義】 脳卒中片麻痺者の上肢運動障害に対して,20分間の動画観察だけで随意運動を促進できる可能性があることが分かった点は,今後の臨床応用に向けた研究の発展に大変意義深いと考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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