理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-11
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一般口述発表
慢性期片麻痺患者の下肢痙縮筋に対するボツリヌス療法と短期集中理学療法の併用効果
運動機能、歩行パフォーマンスへの影響
久保村 竜輔鵜飼 正二野崎 惇貴小山内 良太丸山 佳那子服部 愛子丸山 邦彦松本 大輝原 寛美
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抄録
【はじめに、目的】 慢性期片麻痺患者は後遺症として筋痙縮を伴う場合が多く、下肢筋痙縮の増悪は、歩行障害及びADL低下の直接的な原因となる。本邦では上肢、下肢痙縮筋に対するボツリヌス療法(以下、BTX)が2010年に追加承認され、脳卒中治療ガイドライン2009では、慢性期脳卒中患者の痙縮に対する効果においてグレードAにランクされている。先行研究でKinnearはBTXと理学療法(以下、PT)の併用効果について、その有効性をシステマティックレビューで述べているが(2012年)、本邦での報告はまだ少ないのが現状である。相澤病院では2012年5月より、在宅生活中の下肢痙縮を伴う慢性期片麻痺患者を対象として、歩行パフォーマンスの改善を目的に、下肢痙縮筋へのBTXと短期集中PTの併用治療を行っている。本研究ではその治療効果を、麻痺側下肢機能や歩行パフォーマンスに注目して検証することを目的とする。【方法】 2012年5月から2012年11月の間にBTXとPTを目的に当院に入院した41名のうち、適切な効果判定が困難であった6名を除いた35名を対象とした。対象35名の男女比は男26名、女9名、平均年齢は62.2±12.4歳であり、発症から治療までの経過月数は79.2±71.1カ月であった。評価項目は上田式12段階片麻痺機能テスト(以下、12grade)、他動的足関節背屈ROM、下腿三頭筋のModified Ashworth Scale(以下、MAS)、Functional Reach Test(以下、FRT)、10m歩行時間、Timed Up and Go Test(以下、TUG)とした。評価時期は入院時(初回)、退院前(最終)とした。足関節背屈ROM、FRT、10m歩行時間、TUGは対応のあるT検定を使用し、12grade、MASはウィルコクソンの符号付順位検定を使用し、初回、最終評価の差を有意水準p<0.05にて比較した。 また35名のうち、2012年10月以降に入院した12名は川村義肢製のGait Judge System(以下、Gait Judge)を用いて、歩行周期における麻痺側の荷重応答期底屈トルク値(以下、1stPEAK)と、前遊脚期底屈トルク値(以下、2ndPEAK)を測定しており、初回、最終評価での変化をT検定(有意水準p<0.05)で比較した。 対象者の入院日数は平均10.3±3.7日で、BTX注射は医師の診察後入院当日に上下肢痙縮筋へ合計300-360単位実施された。下肢筋への合計投与単位数は平均140.9±26.2単位、投与筋数は5.0±1.1筋であった。主な投与筋内訳は、腓腹筋内外側頭、ヒラメ筋には全例投与され、後脛骨筋へは全体の77%、前脛骨筋へは74%の症例へ投与された。PTの実施単位数は平均3.9単位/日であり、入院日から退院前日まで毎日実施された。主なPTプログラムとしては、麻痺側足関節の持続的伸張や治療的電気刺激などの局所的なアプローチに加え、起立、ステップ練習、トレッドミル歩行練習などの動作練習を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は個人が特定されないように個人情報の保護に配慮して調査、研究を行った。【結果】 足関節背屈ROMは2.4±7.1°から6.4±5.6°、MASは3±0.5から2±0、FRTは18.1±7.6cmから22.4±6.7cm、10m歩行時間は25.1±17.6秒から21.3±14.0秒、TUGは30.2±18.1秒から25.4±14.5秒へとそれぞれ有意に改善した。12gradeは7±0.5から最終時も変化はみられなかった。また、Gait Judgeにおける1stPEAKは2.38±1.6Nmから2.44±1.9Nmで変化はなかったが、2ndPEAKは0.16±0.4Nmから0.50±0.7Nmへ有意に増大した。【考察】 今回、BTXと入院での短期集中PTの併用による効果を検証し、足関節背屈ROM、MASなどの運動機能評価や、10m歩行時間、TUG、FRTなどのパフォーマンステストの有意な改善が得られた。足関節背屈ROMやMASなど筋痙縮が直接関与している評価項目だけでなく、動作パフォーマンスの改善が得られたことは、麻痺側下肢の機能改善に併せて提供された、集中的な動作練習の効果を示唆し、BTXと集中PTを併用することの重要性を示した。また母集団数は異なるが、Gait Judgeにおける2ndPEAKの改善は、Forefoot Rockerの出現を意味し歩行の質的な改善が歩行パフォーマンス向上を裏付けていることを示唆した。 本研究の限界としては、本邦では下肢へのBTXは最大300単位が認められているが、本研究の対象者は全例上肢痙縮への治療と並行しており、下肢筋への投与単位数が先行研究に比べて少ないことや、BTXのみで集中PTを行わなかった群との比較を行えなかったことがある。また、BTX効果は4週間で最大となるといわれているが、本研究では退院後の長期的な経過をフォローできていないことも本研究の限界である。【理学療法学研究としての意義】 症状が固定されていると思われる慢性期片麻痺患者に対してBTXと集中的なPTの併用により、足関節機能、バランス、歩行能力の向上が認められ、またGait Judgeにより歩行の定性的な改善を示唆したことは、慢性期理学療法の有用性について意義があると思われた。
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© 2013 日本理学療法士協会
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