理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-10
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一般口述発表
脳卒中片麻痺者の立位保持能力に及ぼす視覚と体性感覚情報の影響に関する研究
大河原 七生後閑 浩之臼田 滋
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抄録
【はじめに、目的】 感覚情報と立位姿勢制御の関連性に関する基礎的な検討は報告されてきているが、脳卒中片麻痺患者を対象とした臨床的な研究は少ない。本研究では、閉眼や発泡素材を使用した軟らかい床面上での立位を含めた全4条件での立位保持時間の測定をもとに立位保持能力をStageに分類し、その結果と身体機能障害や動的バランス・歩行能力との関連性の検討を行うことを目的する。【方法】 対象は当院回復期病棟入院患者および通所介護を利用している脳卒中片麻痺者48名とした。取り込み基準は研究趣旨が理解可能で、上肢支持なしで立位保持が15秒間以上可能であることとした。 本研究では立位バランス指標として、硬い床面(以下、FF;Firm Floor)と発泡素材を用いた軟らかい床面(以下、FR;Foam Rubber)にて、各開眼・閉眼(以下、EO;eye open・EC;eye closed)の4条件で、それぞれ30秒間を上限とした立位保持時間を測定した。発砲素材にはAIREXバランスパッド(酒井医療)を用いた。各条件における30秒間の立位保持の可否から、以下の5段階のStageに分類した:Stage1;全条件で立位保持不可能、Stage2;FFEOのみ可能、Stage3:FF条件は可能だがFREOは不可能、Stage4;FREOは可能だがFRECは不可能、Stage5;全条件で立位保持可能。また、両側足部の触覚と振動覚をそれぞれ、Semmes-Weinstein MonofilamentsとRydel Seiffer音叉を用いて定量的に検査した。触覚は拇趾・拇趾球・小趾球・踵の4か所でその閾値を測定し、平均値を解析に用いた。振動覚は内果で測定を行った。身体機能評価として麻痺側下肢のBrunnstrom Recovery Stage(以下、Br.Stage)、動的バランスと歩行能力の指標として、それぞれTimed Up and Go Test(以下、TUG)、Functional Ambulation Category(以下、FAC)を測定した。統計学的解析は、各測定結果間の関連性についてSpearmanの順位相関係数を算出し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得ており、対象者には口頭にて研究の説明を十分に行った上で書面にて同意を得た。【結果】 対象者の年齢の平均と標準偏差は70.2±11.9歳、罹患期間は1001.5±1767.9日であった。各Stageの人数はStage1が2名、Stage2が4名、Stage3が8名、Stage4が15名、Stage5が19名であった。全ての対象者でFFEO・FFEC・FREO・FRECの順で立位保持が徐々に困難になり、Stageの段階付けの判定が逆転する対象はおらず、一貫性を保っていた。StageはBr.Stageと中等度の正の相関を認めた(rs=0.533、p<0.05)。また、Stageと振動覚は麻痺側・非麻痺側とも中等度の正の相関を認め(麻痺側;rs=0.538、非麻痺側;rs=0.433、p<0.05)、触覚でも同様に中等度の負の相関を認めた(麻痺側;rs=-0.413、非麻痺側rs=-0.499、p<0.05)ことから、感覚障害が重度である対象ほど有意にStageが低くなっていた。また、StageはTUGと中等度の負の相関を認め(rs=-0.630、p<0.05)、FACと中等度の正の相関を認めた(rs=0.626、p<0.05)。したがって、Stageの段階が高い対象ほど、動的立位バランスおよび歩行能力が有意に高くなった。また、入院患者と通所介護利用者間では全体的な結果の傾向に著しい相違はなかった。【考察】 立位姿勢制御に関与する感覚情報は視覚・体性感覚・前庭覚の3要素からなる。EC条件やFR条件ではそれぞれ視覚・体性感覚情報の量・質が低下するため、身体動揺は増大しより高いバランス能力が求められる。したがって上位のStageの対象ほどバランス能力が高く、動的立位バランスの評価指標であるTUGとの関連を認めたと考えられる。また、各条件での立位保持時間は立位姿勢制御において利用可能な感覚情報が変化した際の適応の可否を反映していると考えられる。立位保持に必要な感覚情報が変化した場合、感覚の重みづけを相対的に変化させる必要があるとされている。感覚障害が重度である対象は視覚情報や支持面の変化に適応出来ず、各条件での立位保持時間が低下した可能性があると考えられる。今後は、立位姿勢制御における感覚情報の操作に対する適応についての詳細な検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究における立位保持能力のStageの分類は、臨床的に簡便に評価が可能で、標準的な動的バランス指標であるTUGや実用的な歩行能力の指標であるFACと相関を認めたことから、臨床的な立位バランス評価指標として有用であると考えられる。脳卒中片麻痺者に対する理学療法に際して、‘感覚’は重要視されることが多いが、立位姿勢制御と感覚情報の関連性に関する評価が不十分である可能性が高く、本研究はその必要性を示唆している。
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© 2013 日本理学療法士協会
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