抄録
【はじめに】脳卒中発症早期の意識障害は、生命や日常生活等に関する予後への影響が大きく、リハビリテーション阻害因子とされている。我々は臨床場面において、意識障害が早期に改善し、それに伴って動作能力の向上を認める場合と、意識障害が軽度であっても、それが長期化することで動作の獲得が図りにくくなる場合を経験する。この軽度であっても長期化した意識障害が発症早期から1カ月の間にどのような影響を及ぼすか検討することは、意識障害に対する理学療法を再考するために意義があると考える。そこで本研究の目的は、軽度の意識障害をGlasgow Coma Scale(以下GCS)を基に定義し、脳卒中発症後1カ月においても軽度の意識障害が残存した患者と意識障害を認めない患者の下肢運動麻痺、基本動作能力、歩行能力、ADLへの影響を検証することである。【方法】対象は平成22年10月1日から平成24年8月30日までに当大学附属4病院に入院された脳卒中患者312名のうち発症から1カ月以上在院し、発症10日目に安静度の制限がなく、担当理学療法士が認知症ではないと判断し、GCSの開眼・言語・運動の各項目に2点以上の減点を有する意識障害例を除いた患者61名(脳梗塞45名、脳出血16名、平均年齢67.2±14.4歳)とした。方法は、脳卒中発症30日目のGCSの合計点が15点を清明群、減点のあった患者を軽度意識障害群の2群に分類し、発症10日目と30日目の下肢の運動麻痺、基本動作、歩行自立度、ADLを診療録より後方視的に調査した。なお、下肢の麻痺の評価はBrunnstrom recovery stage(以下BRS)、基本動作の評価はAbility for Basic Movement Scale(以下ABMS)合計点、歩行自立度は不能、介助、接触、近位監視、遠位監視、自立の6段階(それぞれ0から5まで段階付した)、ADLはBarthel Index(以下BI)の合計点とした。統計学的分析は、発症10日目および30日目における各調査項目について、Mann-WhitneyのU検定を用い清明群と軽度意識障害群を比較検討した。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は当大学倫理委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言に遵守して行った。【結果】清明群は44名(脳梗塞35名、脳出血9名、平均年齢68.5±13.3歳)、軽度意識障害群は17名(脳梗塞10名、脳出血7名、平均年齢66.1±11.0歳、10日目GCS平均13.7±0.5、30日目GCS平均13.9±0.2)であった。10日目の比較について、BRSは清明群6(中央値)、軽度意識障害群4にて有意差を認めなかったが、ABMSは清明群28点、軽度意識障害群16点、歩行自立度は清明群1、軽度意識障害群0、BIは清明群65点、軽度意識障害群15点にて有意差を認めた。30日目の比較について、BRSは清明群6、軽度意識障害群4にて有意差を認めなかったが、ABMSは清明群29点、軽度意識障害群20点、歩行能力は清明群3、軽度意識障害群1、BIは清明群85点、軽度意識障害群45点にて有意差を認めた。【考察】二木によると、3桁・2桁の意識障害が2週間以上持続した患者の自立度は最終的にも全介助である可能性が高いとしている。一方、軽い意識混濁、軽症意識障害は数日で消失する場合と1カ月以上遷延する場合があり、認知症との区別をはっきりとした方が良いとした上で、阻害因子として挙げている。今回対象とした軽度意識障害群の各動作は、ABMS・歩行自立度・BI合計点が示すように10日目ではほとんどが介助を受けている状態で、30日目では監視または介助が必要な状態であった。また、BRSは10日目と30日目とも有意差を示さなかったが、その他の動作関連の項目はすべてが有意差を示す結果となった。これまで諸家の報告は、発症時の意識障害と生命予後およびADLの予後が相関するというものや、反対に相関しないというもの、発症2週間以内の座位の獲得が、発症4週後のADL改善に影響することや発症早期の意識障害が歩行や転帰先に関わることが報告されていた。これらの報告はいずれも意識障害の重症度は異なり、一定の見解と言及できないが、意識が清明なものと比べると動作等に影響があるとされ、本研究と同様の結果を示した。すなわち、発症から1カ月間、軽度の意識障害が残存した患者は、麻痺の重症度に関わらず発症早期から継続して動作等の自立度に影響するということが示唆された。脳卒中発症後は有効な早期離床、意識障害の改善が1カ月以降の予後の動作などに影響を与える可能性がある。リハビリテーション阻害因子とされてきた意識障害であるが、早期改善のための動作能力の回復を促す必要があると考える。【理学療法の意義】本調査は、軽度の意識障害を対象とした理学療法を再考するために意義があるものである。