理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-11
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ポスター発表
脳卒中片麻痺患者の歩行に対する運動観察後の即時的効果
山崎 倫岡田 一馬大森 貴允冨岡 真光脇本 謙吾
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抄録
【目的】 近年、他者運動の観察と模倣運動の実施を行う運動観察治療(action observation treatment)の有効性が示されてきている(Ertelt,2012.Celnik,2008)。これは、他者行為の観察時に活動するミラーニューロンシステムを応用した治療として注目されており、現在は上肢機能への介入報告が多く報告されている。今回、当院回復期入院中の片麻痺患者を対象に歩行の運動観察を行い、観察直後で改善がみられるか検討を行う。【方法】対象者は、監視または自立して10m歩行可能な、当院回復期入院中の片麻痺患者20名(右片麻痺10名、左片麻痺10名)。対象者を運動観察群とコントロール群に麻痺側が左右10名ずつ、年齢とBrunnstrom recovery stage(以下BRS)がマッチングするよう各10名のグループに振り分けた。運動観察群(年齢61.3±15.7歳、BRS3.3±1.15、歩行速度0.42±0.26m/s、歩幅33.36±10.87cm)コントロール群(年齢62.9±18、BRS3.4±1.3、歩行速度0.5±0.38m/s、歩幅38.81±18.56cm)であり、年齢、BRS、歩行速度、歩幅において有意差はみられなかった。運動観察に用いる映像は健常人男性の歩行であり、対象者はビデオ撮影した動画をPC画面上で観察した。歩行内容は歩行速度1.0m/s、歩幅52.63cmで身体全体・足部のみ・上半身のみが映った3種類を、それぞれ正面・側面の2方向から撮影したものを使用した。運動観察群は10m最大速度歩行時間と歩数を2回計測、別室にてPC上での運動観察を15分間行った。映像を観察するようにのみ指示を与えた。コントロール群は10m最大歩行時間と歩数を計測後、別室にて何も映し出されていないPCの黒色画面を15分観察した。その後、両群ともに再び10m最大速度歩行時間と歩数を2回計測した。なお10m時間はストップウォッチを使用し、歩数は目視にて計測した。歩行時に必要な監視は、担当理学療法士が行い、通常の訓練で用いている杖と下肢装具の使用を認めた。運動観察前後の平均歩行速度(m/s)、歩幅 (cm)を算出し、両群それぞれ前後における差をWilcoxonの符号付順位和検定にて算出した。両群間における歩行速度および、運度観察群の10m速度と歩幅の改善率において右片麻痺と左片麻痺間での差をMann-whitneyU検定にて算出した。また、対象者に歩行前後での歩きやすさの変化を聴取した。全ての統計学的検定の有意水準は5%未満とした。【説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認を受け、本研究の趣旨を対象者に十分に説明し、同意を得た。【結果】運動観察群の10m歩行速度は観察前0.42±0.26m/s、観察後0.5±0.31 m/s。歩幅は観察前33.36±10.87cm、観察後37.08±11.52cmであり、観察前後において10m歩行速度(p<0.01)、歩幅(p<0.01)ともに有意に改善が認められた。コントロール群の10m歩行速度は観察前0.5±0.38m/s、観察後0.51±0.4m/s。歩幅は観察前38.81±18.56cm観察後39.14±19.01cmであり、観察前後において10m歩行速度、歩幅ともに有意差は認められなかった。群間比較において、10m歩行速度の改善率(p<0.01)は運動観察群17.36±8.14とコントロール群0.47±7.79、歩幅の改善率(p<0.01)は観察群11.87±8.91とコントロール群0.55±1.53において有意差が認められた。運動観察群の左右片麻痺間において10m歩行速度、歩幅ともに改善率に有意差はみられなかった。また、観察群において観察後の歩行時に10名中6名が歩きやすくなったと回答した。歩いて感じたことを聴取すると、リズムがとりやすくなった。脚に注意が向きやすくなった。あまり細かい注意を払わなくても歩きやすくなった。との回答が得られた。【考察】結果より運動観察直後の歩行パフォーマンスの改善がみられた。これにより片麻痺患者の歩行に関しても、観察を付加した理学療法が効果的となる可能性が示唆された。そして観察後の患者の記述から、下肢の動作に注意を向けることや、動きでなくリズムに注意を向けるなど違った戦略により改善している可能性が考えられる。  今後は、より効果的な映像内容の検討を行っていき、さらに詳細で長期的な研究を行う必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回の様な歩行における運動観察による即時的な効果が認められたことは、今後の理学療法において、重症例、自主練習、ホームエクササイズなど幅広く適応できる可能性が考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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