理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-11
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一般口述発表
在宅脳卒中患者におけるADL自立度の違いによるQOL関連因子の検討
佐藤 圭子武田 知樹
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キーワード: 脳卒中, ADL, 健康関連QOL
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抄録
【はじめに,目的】 近年,医療福祉分野において心身の健康状態を評価する指標の一つとして健康関連QOL(Health-related quality of life;以下HRQOL)という概念が広く用いられている.このHRQOLは,「個人や集団の主観的な心身の健康」と定義されており,身体的健康のみならず精神的健康を含めた対象者自身の主観的判断に基づく包括的概念である.つまり,疾病による影響が患者の日常生活機能へ与えるインパクトを数値化したものと捉えることができる. 一方,理学療法の対象となることの多い脳卒中患者は,多様な後遺症を有するケースも少なくないため,患者個々の残存能力や生活環境により在宅における日常生活活動(Activities of daily living;以下ADL)の自立度は大きく異なる.  本研究の目的は,異なるADL自立度の集団に対して,HRQOLの関連因子をそれぞれ明らかにすることである. 【方法】 対象は在宅脳卒中患者75名(平均年齢71.1±8.6歳,男性31名,女性44名,発症経過期間54.0±47.9ヵ月)であった. 調査方法は質問紙法とし,調査内容はHRQOLとADL自立度の他に,年齢や性別といった基礎情報,またHRQOLとの関連性が予想される上下肢の運動麻痺(Brunnstrom recovery stage;以下BRS),感覚障害,要介護度,抑うつ症状(Geriatric Depression Scale;以下GDS)などを同時に調査した. なお,HRQOLの評価にはMOS 8-Item Short-Form Health Survey(以下SF-8),ADL評価はBarthel Index(以下BI)を使用した.  分析方法はSF-8の「身体的サマリースコア(Physical component summary;以下PCS)」および「精神的サマリースコア(Mental component summary;以下MCS)の領域得点を算出するとともに,ADL自立群(BI 100点)と非自立群(BI 100点未満)の2グループに分けて,それぞれのPCS,MCS得点を比較した(Mann-Whitney U-test,p<0.05).  また,SF-8(PCS,MCS)と各変数との相関係数を算出し,ADL自立度別にHRQOLの関連因子を検討した(Spearman’s rank correlation,p<0.05).【倫理的配慮,説明と同意】 調査実施にあたっては,対象者の十分な同意を得るため調査概要を説明した文書を作成し,研究の趣旨および内容に対し理解および同意が得られた者を対象とした.【結果】1)HRQOLとADL自立度別比較 PCSではADL自立群41.7±8.5点に対し,非自立群は39.2±10.7点で自立群は有意に高値を示した(Mann-Whitney U-test,p<0.05). 一方,MCSではADL自立群47.0±8.0点に対し,非自立群50.9±11.0点で,非自立群が有意に高値を示した(Mann-Whitney U-test,p<0.05). 2)HRQOLの関連因子 PCSでは,ADL自立群において統計学上有意な相関を認めなかったが,非自立群においてはPCSと要介護度(r=-0.41)において有意な負の相関を認めた(無相関の検定,p<0.05).  MCSでは,ADL自立群において要介護度(r=-0.48),GDS(r=-0.59)において負の相関がみられた.非自立群では要介護度(r=0.35)で正の相関,GDS(r=-0.39)で負の相関を認めた(無相関の検定,p<0.05). 【考察】 在宅脳卒中患者のADL自立度がHRQOLに与える影響を検討した. ADL自立度別比較ではADL自立度の高い方がPCSは高値を示したが,MCSは逆に低値を示していた.このことは,ADL自立度が必ずしも精神的な健康に結び付かないことを表しており,ADLがある程度自立した脳卒中患者の在宅生活における社会適応の難しさを示した結果であると考えられた. HRQOLの関連因子の検討では,ADL非自立群では身体的健康を示すPCSと要介護度で有意な負の相関を認めた.患者が実生活の中でどのくらい介護を必要としているかといった事が,運動麻痺等の機能的尺度より,直接的に患者のHRQOL低下へ影響していることが示唆された. また,MCSについてはADL自立群,非自立群ともにGDSと有意な負の相関を認めた.この事から脳卒中患者の在宅生活においては,ADL自立度に関わらず脳卒中後うつ(Post stroke depression;PSD)が患者の精神的健康へ悪影響を与えることが危惧される結果であった.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,精神的な健康はADL自立度に必ずしも影響されない可能性が示唆された.さらに,ADL自立度が高くてもうつ症状により精神的健康を低下させる可能性が考えられ,これらのことは脳卒中患者の在宅リハビリテーションを進める上で留意すべき知見である.
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© 2013 日本理学療法士協会
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