抄録
【はじめに、目的】 高齢者にみられる低栄養は生理的機能の低下とともに身体機能の低下を引き起こす。また、身体機能の低下はADL低下を引き起こし、死亡率の増加、QOL低下を招くことになる。このようにリハビリと栄養は相互関係になっており、切っても切り離せない関係である。しかし、リハビリの視点から栄養を捉えた研究は少ないのが現状である。先行研究では、栄養状態とADLに関連があると報告されているが、リハビリの視点から考えると、低栄養がADLの障害を引き起こすのではなく、低栄養が身体機能の低下を引き起こし、その結果ADL能力の低下を引き起こすと考えられる。そこで、本研究では栄養状態がADL能力に及ぼす影響を共分散構造分析により検討し、栄養状態がADL能力に直接与える影響と、身体機能を介してADL能力に間接的に与える影響を検討した。【方法】 対象は地域在住要支援・要介護高齢者108名の内、75歳未満、脳卒中発症から6ヶ月以内、骨折受傷や手術後3カ月未満、悪性腫瘍を呈している方を除外し、すべての測定項目が実施可能であった71名(男性:16名、女性:55名)とした。測定項目は、年齢、BMI、BI、MMSE、簡易栄養状態評価表(MNA-SF)、SPPB(Short Physical Performance Battery)、上腕周径、下腿周径、握力とした。ADL能力に影響すると考えられる要因の関連性について、仮説モデルを作成し、それらの要因の相互関連性を明らかにするため、共分散構造分析を行った。また、栄養状態がADL能力に直接与える影響と、身体機能を介してADL能力に与える影響を標準化直接効果と標準化間接効果、それら二つを総合した標準化総合効果にて検討した。モデル適合度の判定にはGFI、AGFI、CFI、RMSEAを用いて判断した。統計処理は、IBM SPSS Statistics19とIBM SPSS Amos19を用いて行い、有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全対象者に研究の目的および測定に関する説明を十分に行い、口頭または書面にて同意を得た。【結果】 対象者の年齢は87.2±5.3歳、身長は150.5±5.7cm、体重は46.4±9.7kg、BMIは20.4±3.9、介護度は2.0±1.0、BIは83.0±21.3点、MMSEは20.7±5.3点、MNA-SFは10.9±2.2点、上腕周径は23.1±3.6cm、下腿周径は30.3±3.9cm、SPPBは5.3±3.4点、握力は14.9±6.4kgであった。ADL能力と関連する要因についての関係は、仮説モデルを基に共分散構造分析を用いて、モデルの修正と改良を行った。パス係数が低く、統計的に有意な関連を示さなかったパスを除外していき、最終的なモデルを作成した。MNA-SFがBIに直接影響を与える指標である標準化直接効果は0.20であった。また、MNAがSPPBを介し、BIに間接的に与える影響を示す指標である標準化間接効果は0.24であった。MNA-SFがBIに直接与える影響と、SPPBを介して影響を与える間接的影響を総合した標準化総合効果は0.44であった。MMSEとSPPBがBIに与える標準化総合効果はそれぞれ0.25、0.51であった。モデル適合度の指標として使用したGFI、AGFI、CFI、RMSEAの値は、それぞれ、0.97、0.88、0.99、0.06であった。【考察】本研究の結果から、栄養状態がADL能力に直接与える影響よりも、身体機能を介して間接的に与える影響の方が大きいことが明らかになった。また、ADL能力に最も影響を与えるのはSPPBによる身体機能であることが明らかになった。先行研究から、栄養状態の悪化がADL能力を低下させることが報告されているが、本研究の結果から、栄養状態の悪化が身体機能の低下を引き起こし、その結果ADL能力の低下を引き起こしていることが明らかになった。先行研究より、GFIは0.90以上、AGFIは0.85以上、CFIは0.90以上、RMSEAは0.08以下がモデル適合度の基準として示されており、本研究の仮説モデルはすべて基準を満たしていた。そのため、このモデルの適合度は良好であると判断した。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より、栄養状態が身体機能やADL能力に影響を与えることが明らかになった。また、ADL能力の改善には身体機能だけでなく栄養状態の改善が必要であると考えられ、リハ職種がリハビリにおいても栄養状態を考慮する必要があると考えられる。今後は、リハビリ後に栄養補助食品を飲ませるなど、運動と栄養の併用の効果を検証していく必要があると考えられる。