抄録
【はじめに、目的】第45回大会において我々は、回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)を退院した脳血管障害患者の健康関連QOL(HRQOL)とその関連要因を報告した。今回、HRQOLが経時的に変化するか否かを調査するために、同じ対象者に対して19か月後のHRQOLを再調査したので報告する。【方法】対象は2006年8月から2008年11月末までに当院回復期病棟へ入院した初発の脳血管障害患者であり、退院時の理解能力が機能的自立度評価法(FIM)4以上で、前回調査時に回答のあった者のうち、以下の除外基準に該当しなかった121名とした。除外基準は再発例、本人以外が記入した場合、施設あるいは入院中の場合、回復期病棟入院期間が2週間未満の場合とした。対象者に前回の調査から約19か月後に再度、自己記入式アンケートを郵送した。調査項目はMOS 36-Item Short-Form Health Survey(SF-36)に加え、老研式活動能力指標(TMIG)、ADL、要介護状態区分等、住居、1年間の罹患有無、外出頻度、医療・介護保険でのリハビリテーション(リハ)を受けているか否か、自主的なリハ実施の有無とした。ADLは食事、更衣、移動、排泄、入浴の5項目について全介助(1点)、一部介助(2点)、見守り(3点)、自立(4点)とし、合計点を算出した。外出頻度は「ほとんど外出しない」「月に1-3回」「週に1-2回」「週に3-6回」「毎日」を選択してもらい、0-4点を配点した。入院時の情報はカルテから収集した。分析にはSPSS ver11を用い、Wilcoxon の符号付き順位検定、Mann-Whitney 検定、Spearmanの順位相関係数を使用し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】この調査は院内の倫理委員会の了承を得て行った。また、アンケートへの回答をもって調査への同意とした。【結果】アンケートは88名(72.7%)から回収し、再発者4名、住居が施設もしくは未記入5名、回答者が不明もしくは代筆は10名であった。これらを除外し、SF-36のサマリースコアが算出可能であった64名が分析対象となった。64名の退院時平均年齢と標準偏差は62±12歳で、男性が39名、女性が25名であった。退院時のFIM身体項目合計は80.6±9.7点、認知項目合計は32.6±3.2点で、発症から前回調査時までの日数平均は600±213日であった。最近1年間に何らかの疾患を罹患したものは21名(32.8%)おり、医療・介護保険でのリハを実施しているものは55名(85.9%)で、自主的なリハは52名(81.3%)が行っていた。前回調査との比較は、SF-36のPhysical Component Summary(PCS)は37.1±12.2(前回36.5±12.5)、Mental Component Summary(MCS)は48.8±11.1(47.0±10.1)と有意差を認めなかった。同様にTMIGの中央値11点(11点)、ADL15点(15点)、要介護度2(要介護度2)も有意差を認めなかった。これらの指標について調査間の変化量を算出し、年齢、外出頻度との相関分析を行うと、PCSとMCSおよびTMIGは互いに有意な正の相関を認めた。年齢は外出頻度と有意な負の相関を認めた。最近1年間に何らかの疾患に罹患した者とそうでない者について、PCS、MCS、TMIG、ADL、要介護状態区分等の変化量を比較したが、いずれも有意差を認めなかった。【考察】回復期病棟を退院した初発の脳血管障害患者に対して、約1年半の間隔を置き2回の調査を実施したが、患者のHRQOL、IADL、ADL、要介護状態区分等には変化がなく低値のままであった。8割以上の患者が何らかのリハを受けていたことから、生活期でのリハは維持的な効果を持つとことが示唆された。罹患の有無によるHRQOL、ADL、IADL、要介護状態区分等の変化量に差がなかったことは、これらの指標に対する脳血管障害によるインパクトの大きさを示すとともに、リハによる効果と思われた。また、HRQOL、ADL、IADLの変化量が互いに正の相関を示したことから、生活期においてもADLやIADLを改善することがHRQOLの改善にもある程度つながるものではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】生活期における脳血管障害患者のHRQOLとIADLは1年半を経過しても変化しておらず、低値にとどまることが明らかとなった。HRQOL、IADL、ADLの変化量は互いに正の相関をしており、ADLやIADL改善へ対する理学療法が、患者のHRQOLの向上につながる可能性を示された。