理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-P-19
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ポスター発表
回復期リハビリテーション病棟入院対象疾患にもかかわらず療養型病床に入院になった患者の特徴と当院療養病棟の役割について
大塚 智
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抄録
【はじめに】 当院の医療圏はわずか2病院で28万人の市民の二次救急業務を実施しているため、市外の複数医療機関と広域な救急医療連携体制を構築し地域医療を担っている。そのような地域情勢から急性期病院であるものの医療療養型病床(以下療養病棟)を併設し維持期まで担う包括的医療を行っている。当院が療養病棟を存続させている背景には、急性期を脱し亜急性期から維持期に移行した患者が自宅復帰するための理学療法を施行できる後方施設の量的不足がある。当院では平成16年に回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)50床、療養病棟50床を開棟し継続、運営している。回復期病棟は病期的に落ち着いているが急性期病棟から直接退院できない患者を受け入れ、自宅退院に向けて積極的に働きかけている。しかし、回復期病棟対象疾患でありながら回復期病棟に転床できず療養病棟へ転床した患者も多くいる。そこで、回復期病棟と回復期病棟対象疾患でありながら療養病棟に転床した患者を比較し、今後の当院での療養病棟のありかたを考察することを目的とした。【方法】 2010年4月1日以降に入院し、2012年9月30日までに退院した療養病棟患者700例(男性283例、女性417例、平均年齢74.9歳±10.2歳)を対象に、回復期病棟対象疾患にも関わらず療養病棟に入院した患者を選定し、同時期の回復期病棟患者(以下回復期群)670例と比較した。検討項目は患者属性、入院期間、転帰先、退院時FIM、障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準および認知症高齢者の日常生活自立度判定基準を後方視的に比較した。また、回復期病棟対象疾患を脳血管系疾患と骨関節系疾患に分類し、それぞれを比較検討した。統計手法は対応のないt検定、Welch法 、Mann-WhitneyのU検定、カイ2乗検定を行い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 なお、この研究は当院における倫理規定に則し、データを匿名化し個人特定ができないよう配慮した。【結果】 療養科病棟患者700例のうち、回復期病棟対象疾患患者(以下療養群)237例(男性74例、女性163例、平均年齢77.9歳±9.1歳)であった。患者属性は療養群では年齢は有意に高齢であり(p<.00)、性別でも女性が有意に多かった(p=.016)。入院期間では、一般病棟から転床までの期間は平均34.9±21.3日、転床してから退院までの期間は平均55.9±30.0日であり両群ともに差はなかった。転帰先では療養群が有意に転院や介護施設に移る率が高く(p<.00)、自宅復帰率は52.7%にとどまった。退院時FIMでは項目すべてにおいて有意な差があった。また、障害高齢者日常生活自立度もB-2以下が回復期群は18.7%と2割に満たないのに対し、療養群は32.9%と日中介助により車椅子乗車するが寝たきりでいる状態の患者が多いことがわかった。認知症高齢者自立度では1以上が回復期群66.2%に対し療養群は53.6%と低く、2a以下は37.9%と有意に高かった(p<.00)。疾患の内訳では療養群は骨関節系疾患が、回復期群は脳血管系疾患が有意に多かった。【考察】 今回の結果より、療養群は回復期群よりも高齢女性で身体及び認知能力が低く、骨関節系疾患の患者が多いことが分かった。また、退院先も転院や介護施設へ移る症例が多いことが分かった。また、両群の入院期間に差がないことから、全身状態が不安定で医学的管理が必要な患者、認知能力低下が著明で自宅退院を家族が望んでいない患者など、回復期病棟施設基準から漏れてしまう可能性がある患者を療養病棟が早期に受け入れている事実も明らかになった。転帰先の結果から転院や介護施設へ移る症例は回復期群と比較し多いものの、介護が必要な状態でも自宅復帰率が50%を超えていた。現在の回復期病棟施設基準では対象疾患が8割以上入院、自宅退院率60%以上、重症患者20%以上、患者全体での単位取得数平均2単位以上(施設基準2の場合)と細かく定められている。つまり、入院、転床前から自宅退院が可能であり、かつリハビリテーションが高単位施行できる患者を選定して入院させることが可能である。このような施設基準から漏れてしまう可能性のある患者へも本人・家族へのアプローチを施すことによって適切な転帰先へと推し進める事ができ、そのアプローチの最初の受け皿として当院療養病棟が機能していることがうかがえた。われわれ理学療法士はどのような医療制度や職場環境おいても、患者・疾患を選ばず社会復帰させるために患者治療に全力であたる必要がある。今後の地域情勢が変わらない限り自宅退院が困難な患者と向き合い、社会復帰させるための役割として当院での療養病棟の存在、継続は必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 今後の維持期患者に対するリハビリテーションのあり方と療養病棟を存続させるうえで貴重な資料になると思われる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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