抄録
【目的】効果的なリハビリテーション(以下:リハ)の実施において、患者の能動的なリハへの参加は重要な要因の1つである。参加意欲に関連する要因として患者の心理状態、認知機能、疲労、性格など個人要因に加え、リハビリスタッフとの関係性、家族や周囲のスタッフからの期待などの社会的要因も挙げられる。また、病前の社会的地位が高い人ほど良い帰結であったという報告もあり、多様な社会的要因が帰結に影響していると考えられる。このように意欲や社会的要因は重要であるが、本邦には参加意欲を測定する客観的な評価指標が無かった。しかし、海外ではPittsburgh Rehabilitation Participation Scale(以下:PRPS)が作成され、その検者間妥当性、PRPSを用いた急性期リハでの帰結予測、在院日数との関係について明らかとされているが、回復期リハビリテーション病棟(以下:回復期病棟)での検討や患者の多様な社会的要因までも考慮した帰結調査は未だ行われていない。本研究では回復期病棟入院患者の示すリハへの参加意欲と帰結との関係を明らかにするために、まずは入院から4週間経過した時点(以下:初期)での参加意欲とそれに関連する要因について、多施設共同データを用いて検討することを目的とした。【方法】平成24年8月1日以降に回復期病棟に新規入院した患者、かつ平成24年10月4日までに入院後4週間経過した5施設81名を対象(脳血管疾患28名:年齢72.9±13.5歳・運動器疾患27名:85.1±8.4歳・廃用症候群26名:年齢80.1±8.6歳)とし、除外基準は重度の意識障害・認知症・高次脳機能障害または、不安定な全身状態にあり自発的にリハビリに参加出来ない者とした。評価項目は参加意欲指標としてPRPSを用い、今回は入院後4週目までのPT・OT・STの平均値を用いた。PRPSは拒否、受身的、積極的等6段階で患者のリハ参加意欲をセラピストが客観的に捉える指標である。個人要因として年齢、疾患種別、病前運動習慣の有無、入院時Functional Independence Measure運動項目・認知項目・合計(以下:運動FIM・認知FIM・合計FIM)、入院時Mini Mental State Examination (以下:MMSE)、認知機能の問題の有無、初期自主トレーニングの程度、社会的要因として職業経験の有無・職種、家族介護力、家族介護の程度、家族のリハへの支援の程度とした。統計解析は疾患別(脳血管疾患、運動器疾患、廃用症候群)で、入院後4週目までの平均PRPS値と各項目との関連性をSpearmanの相関係数を用い、職業経験の有無・職種、疾患別でのPRPS、運動FIM、認知FIM、MMSEの多群間の比較に関してはKruskal-Wallis検定(多重比較法:Scheffe)を用いて行った。統計ソフトはExcel統計を用い有意水準5%未満とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し、全施設にて口頭および書面による説明と同意等の倫理的な配慮を行っている。【結果】脳血管疾患(PRPS 4.13±0.78・運動FIM 46.6±25.1・認知FIM 22.6±8.4・MMSE21.2±7.8・認知症率50.0%)において有意な相関が認められたのは年齢(ρ=-0.48)、運動FIM(ρ=0.79)、認知FIM(ρ=0.70)、MMSE(ρ=0.55)、初期自主トレーニングの程度(ρ=0.55)であった。運動器疾患(PRPS4.13±0.85・運動FIM 48.0±18.9・認知FIM 24.0±7.1・MMSE18.4±7.7・認知症率67.6%)においては運動FIM(ρ=0.39)、認知FIM(ρ=0.74)、MMSE(ρ=0.60)、初期自主トレーニングの程度(ρ=0.58)であった。廃用症候群(PRPS3.93±0.99・運動FIM 47.0±22.3・認知FIM25.5±9.1・MMSE19.7±8.3・認知症率68.0%)では運動FIM(ρ=0.46)、認知FIM(ρ=0.50)、MMSE(ρ=0.57)、初期自主トレーニングの程度(ρ=0.44)であった。しかし、家族の介護力・介護の程度・リハへの支援において統計学的な関連性は認められず、職業経験の有無・職種、疾患別のPRPS・運動FIM・認知FIM・MMSEの比較においても統計学的に有意な差は認められなかった。【考察】今回の結果から入院初期の段階では、どの疾患においてもPRPSとFIM(運動項目・認知項目)やMMSEとの相関が強いことが明らかとなった。また、Lenzeらは急性期リハでは、疾患別のPRPSとFIMの関係において一部差があることを報告しているが、本研究では疾患別ではPRPS・運動FIM・認知FIM・MMSE共に統計学的に有意な差がないことから、回復期リハでは疾患の影響よりも能力障害の影響が強いといえる。また、家族介護力や介護の程度、リハへの支援、職業経験の有無・職種といった社会的要因で関連・差が認められなかったのは対象者の年齢、認知症率が高いためと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本邦の理学療法研究において患者の参加意欲をみた研究報告は殆ど無い。本研究はその数少ない参加意欲に関する知見を提供するとともに、多施設共同研究として施設間特性の偏りを除いた知見を提供するため、理学療法研究として意義あるものと考えられる。