抄録
【はじめに】肺癌術後のリハビリテーションでは、早期退院獲得だけでなく、自宅復帰後のQOL向上や術後補助化学療法等の治療が円滑に進むよう、術後運動耐容能の十分な回復を図る必要がある。しかしながら、術後回復が遅延し、在院日数が延長する症例が散見されることから、今回、肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除術(VATS lobectomy)を施行し呼吸リハを実施された患者において、術後の運動耐容能回復に影響を及ぼす要因を検討した。【方法】対象は、2005年6月から2012年10月までに、当院で肺癌に対しVATS lobectomyを施行され、術前より呼吸リハを介入し、術前歩行が可能であった242例(男性152例、女性90例、平均年齢69.2±10.8歳)とした。カルテより患者因子および手術因子を調査した。運動耐容能の評価としては、術前と術後1週目に6分間歩行試験を行った。術後1週目の6分間歩行距離(6MWD)回復率の中央値で、回復良好群(以下、良好群)、回復遅延群(以下、遅延群)の2群に分け、χ二乗検定およびFisherの正確検定を用いて単変量解析を行い、p<0.2の変数を説明変数、運動耐容能回復遅延を目的変数とし、多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は危険率5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、対象者全員に十分な説明を行い、同意を得て評価および呼吸リハを実施し、倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。【結果】術後在院日数の中央値は9日(4日~117日)で術後1週の6MWD回復率の中央値は、90%(25~158%)であった。良好群120例、遅延群122例で、術後合併症を発症し6MWD実施不可能であった23例は遅延群に含められた。合併症発生率は、良好群12%、遅延群36%であった。2群間の単変量解析では、年齢(≧75歳;p=0.007)、併存疾患(Charlson comorbidity index≧1;p=0.123)、手術時間(≧5時間;p=0.056)、ASA classification(≧3;p=0.036)、TP(<7g/dl;p=0.045)、%DLco(<80%;p=0.054)、術後予測%DLco(<80%;p=0.026)で有意差を認め、多変量解析を行った結果、年齢(OR=2.90,95%CI:0.24~0.84,p<0.001)と術後予測%DLco(OR=1.88,95%CI:0.02~0.62,p=0.039)が有意であった。【考察】今回の検討より、肺癌に対するVATS lobectomyを施行した患者において、年齢と術後予測%DLcoが術後回復遅延を生じる有意な独立因子であった。また、術前の併存疾患や手術時間も影響を及ぼす傾向にあった。【理学療法学研究としての意義】肺切除周術期のリハビリテーションにおいて、術後の運動耐容能回復に影響を及ぼす因子を把握し、術後合併症予防に努めると同時に十分な運動療法を施行することで術後の早期回復に寄与すべきと考える。