理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-53
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ポスター発表
超音波画像による大腿前面筋エコー強度と運動器の機能低下リスクとの関係
河合 恒大渕 修一光武 誠吾吉田 英世平野 浩彦小島 基永藤原 佳典井原 一成
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キーワード: 高齢者, エコー強度, 運動器
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抄録

【はじめに、目的】高齢者の生活機能の維持のためには、運動器の機能低下を適切に評価し、早期に対処していくことが重要である。超音波画像計測装置による筋の形態的特徴の測定は、虚弱高齢者に対しても安全に機能評価を行えることが期待できる。近年では持ち運び可能な小型の製品が開発されており、在宅や診察室などにおいて広く利用できる可能性もある。しかし、超音波画像計測によって得られた筋厚や筋の繊維化の状態と、運動器の機能低下リスク(運動器リスク)の発生との関係を調べた研究は行われていない。そこで、本研究では、運動器リスクを安全に評価するための指標として、小型の超音波画像計測装置を用いて大腿前面の筋厚(大腿筋厚)及び筋エコー強度(大腿EI)を測定し、地域在住高齢者における運動器リスクの発生との関係を検討した。【方法】被験者は、東京都健康長寿医療センターにおいて実施した、包括的な生活機能検査「お達者健診2011」の受診者であった。健診受診者913名のうち研究へのデータ使用に同意した898名を本研究の分析対象とした。超音波画像の測定には、超音波計測装置(みるキューブ、グローバルヘルス社製)を用いた。被験者が椅子に座って膝関節を90 度屈曲させた姿勢で、足を床につけて筋を弛緩させたときの膝蓋骨上縁から大腿骨の長軸に沿って15cm近位の大腿四頭筋部に、筋線維走行に垂直にプローブを当て、超音波画像を記録し、大腿筋厚を測定した。また、画像解析ソフトウェア(Adobe Photoshop Element 7.0)を用い、大腿四頭筋部の平均輝度を大腿EIとして測定した 。運動器リスクの評価には、基本チェックリスト(CL)を用い、厚生労働省の基準に従って運動器リスクの該当・非該当を判定した。CL該当数も算出した。また、運動器疾患関連アウトカム指標として、膝、腰の痛みをそれぞれJKOM(日本版変形性膝関節症 患者機能評価表)、JLEQ(疾患特定・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度)、転倒リスクを転倒リスク評価表にて評価した。そして、大腿筋厚、EIと、CL該当数、運動器疾患関連アウトカム指標との関係についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。また、大腿筋厚、EI の4分位値をもとに被験者を4区分に分け、各区分における運動器リスクの発生率との関係をχ2 検定にて検討したうえで、運動器リスクの発生を従属変数、大腿EIを独立変数として性年齢を調整したロジスティック回帰分析を行った。統計解析にはIBM SPSS Statistics Version 19 を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の参加者に対しては、「疫学研究に関する倫理指針」に基づき、研究の目的などについて明確に説明し、本人から書面による同意を得た。本研究は、所属機関の倫理委員会において審査され、承認を受けた。【結果】大腿筋厚は、男性ではCL該当数、転倒リスク、女性ではJLEQと有意な負の相関が認められた。大腿EIは男性ではCL該当数、JLEQ、転倒リスクと有意な正の相関を認めた。女性では相関の認められた指標はなかった。筋厚と運動器リスクの発生率との関連は有意ではなかったが、大腿EIでは、EIが高いほど運動器リスクの発生率が有意に高かった(χ2 =15.443, p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果、大腿EIが最も高い区分の者では、最も低い区分の者に比べて2.5倍(95%信頼区間:1.4-4.6)、運動器リスク発生の確率が高かった。【考察】大腿筋厚、EIは筋の形態的な特徴の評価であり、運動機能や、膝や腰の痛みなどの運動器疾患が影響するリスクの正確な予測は困難と考えられるが、これらの指標は、CL該当数、転倒リスク、腰の痛みなどの指標とも一部関連が認められ、運動器リスクの発生に関係していることが示唆された。特に、EIは筋厚よりも運動器リスクとの関連が強く、運動器リスクの予測に有用である可能性が示唆された。今後、縦断研究によって将来的な運動器リスク出現の予測にどのくらい活用できるか検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】運動器リスクの評価指標には膝伸展筋力や歩行速度があるが、これらの指標の測定には、虚弱高齢者に対しては関節組織に損傷を与える危険性があることや、十分なスペースが確保できない場所では測定が困難であるなどの課題がある。虚弱高齢者に対して従来よりも安全に運動器リスクを評価できる方法を検討した本研究は、理学療法学研究として意義がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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