理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-53
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ポスター発表
異なる運動におけるPhysiological Cost Indexの考え方に基づく運動効率の簡易的な指標の検討
加藤 喜晃中 徹
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キーワード: 心拍数, 運動効率, PCI
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抄録

【はじめに、目的】臨床では様々な運動効率を評価する必要がある。運動効率の簡易な指標として心拍数を用いるPhysiological cost index(PCI)がある。PCIは歩行時心拍数と安静時心拍数の差を歩行速度で除したもので、値が小さいほど運動効率は良いとされる。成人の歩行では0.1 〜0.5beat/meterが標準値で、3 〜5 分の値を採用可能であるとしている。簡易に心肺機能の一端を示すことができ、難しい技術の習得も必要としない。しかし、PCIは歩行以外の運動では報告がされていないため、本研究の目的はPCIを用いて歩行以外の運動効率を評価するために測定条件を明らかにすることである。【方法】PCIの検討を行う上で、最適速度・頻度を定義した。本研究では、最適速度・頻度は各個人の自覚強度で楽に行える速度・頻度とし、実験前に一定の速度・頻度で行えるよう練習を行った。最適速度・頻度はカルボーネンの式より最高心拍数を計算し、60%以下で行っているものとし、それ以上のものは除外した。運動課題は臨床でよく用いられる歩行・四つ這い・寝返り・起き上がり・ずり這い・立ちしゃがみ運動を選択した。第一段階として、PCIにおける各動作の強度依存性を検討した。対象者は健常成人21 名(男性9 名女性12 名)、年齢は20.47 ± 0.51 歳であった。速度・頻度は各被験者の最適速度・頻度(以下、最適)・30%増のもの(以下、30%増)・30%減のもの(以下、30%減)の3 種類を設定した。速度・頻度はメトロノームで動作頻度を管理し、一定に保つよう指示した。動作ごとに各速度・頻度のPCIを比較した。第二段階として強度依存性の検討を行った。測定対象の運動は第一段階で強度依存性の少なかった歩行・立ちしゃがみを選択した。対象者は健常成人19 名(男性10 名女性9 名)、年齢は21.55 ± 4.52 歳であった。測定時間は5 分とし、最適速度・頻度で行った。また時間依存性をより把握するためTotal heart beat index(THBI)を検討に追加した。THBIは歩行時心拍数の合計を歩行距離の合計で除するものである。PCIは1 分ごとに比較し、THBIは各分間をそれぞれ比較した。統計処理はFriedman検定とScheffeの多重比較を用い、有意水準5%で検討した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容の十分な説明を行い、同意を得た。この研究は鈴鹿医療科学大学の臨床倫理審査委員会で承認を得た。【結果】第一段階の実験ではPCI(beat/meter,beat/回) を最適・30%増・30%減の順に示すと、歩行では0.35 ± 0.12・0.38 ± 0.13・0.37 ± 0.20、四つ這いでは0.71 ± 0.30・0.67 ± 0.25・0.90 ± 0.38、ずり這いでは1.39 ± 0.49・1.60 ± 0.56・1.86 ± 0.77、寝返りでは1.05 ± 0.48・0.84 ± 0.46・1.50 ± 0.68、起き上がりでは1.56 ± 0.52・1.34 ± 0.67・2.48 ± 1.24、立ちしゃがみでは1.51 ± 0.50・1.43 ± 0.48・1.85 ± 0.76 であった。寝返りでは30%増が最適よりも有意に低値であった(p=0.02)。最適が30%減よりも有意に低値であった(p=0.00)。起き上がりでは30%増が最適よりも有意に低値であった(p=0.00)。最適が30%減よりも有意に低値であった(p=0.00)。四つ這いでは最適が30%減より有意に低値であった(p=0.00)。ずり這いは最適が30% 減より有意に低値であった(p=0.02)。立ちしゃがみ・歩行では最適と30%増減による差はみられなかった。第二段階の実験では、PCI(beat/meter,beat/回)の値は、歩行では5 分は1 分よりも有意に高値であった(p=0.03)。立ちしゃがみでは3 分、4 分、5 分が1 分よりも有意に高値であった(p=0.00)。5 分は2 分よりも有意に高値であった(p=0.04)。THBI(beat/meter,beat/回)では歩行、立ちしゃがみでは時間による差がみられなかった。【考察】第一段階の実験より歩行・立ちしゃがみ以外では強度依存性がみられ、最適速度・頻度を用いて行うPCIには不向きであると思われた。最適速度で行うよりも運動効率が良いという結果は、寝返り、起き上がりは主に体幹を用いて行う運動で、四つ這い、ずり這いは上肢を用いるために心拍−呼吸リズムや心拍−動作リズムのカップリングの影響が否定できず、また強度の変化に敏感に反応したものと思われた。第二段階の実験では強度依存性がみられなかった歩行と立ちしゃがみを選択し、時間依存性を検討した。歩行ではPCIは2 分、もしくは5 分以上、立ちしゃがみでは3 分、もしくは5 分以上から採用可能と思われた。THBIは、歩行では心拍数の増加の割合に対して歩行距離の増加の割合が近似していた。立ち上がりは時間ごとに回数の変化はなく、心拍数は緩やかに増加するものの差は見られなかった。THBIでは歩行、立ちしゃがみはともに1 分から採用可能と思われた。【理学療法学研究としての意義】心肺機能の一端を評価できる心拍数を用いた指標は高価な道具を必要とせず、臨床で簡易に計測することができ、意義があると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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