理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-45
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ポスター発表
自己効力感が運動パフォーマンスに与える影響
遠藤 直人杉本 諭加藤 星也
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抄録

【目的】自己効力感はBanduraによって提唱された社会的学習理論であり,行動を自分自身が適切に遂行できるかどうかの見積もり・予期のことをいい,行動変容に影響を及ぼすと考えられている.近年では,運動選手のパフォーマンスの違いや高齢者の転倒に関する自己効力感の研究が行われている.これらの研究では,自己効力感の高い者では運動のパフォーマンス能力が高く,転倒発生率が少ないと述べられているが,対象が有する運動能力が異なるため,自己効力感の違いによってパフォーマンスが変化するのかどうかは明らかではない.今回我々は,積み木を用いた積み上げテストを行い,自己効力感が運動パフォーマンスに与える影響について検討した.【方法】本学の学生48 名を本研究の対象とした.性別は男性24 名,女性24 名,平均年齢は21.5 ± 0.8 歳で,全例右利きであった.積み上げテストには,コース立方体組み合わせテストの積み木(一辺3cm)を使用した.測定は着席した状態で,正面の机に置かれた積み木を利き手のみで10 秒間にできるだけ多く積むように指示した.実施に先立ち,実際に積み木を5 つ積んでもらい,「10 秒間にいくつ積めると思うか」を聴取した.次に目標設定の違いが実施数に関連するのかを明らかにするために,1 回目より出来るだけ多く積む(目標無し),1 回目より2 個以上多く積む(小目標),1 回目より4 個以上多く積む(過大目標),の3 通りの目標をランダムに与えて施行した.本研究の動作課題は上肢の巧緻性が必要であると考え,上肢機能の評価には簡易上肢機能検査動作のうち,ピンと小球の課題を行った.分析は対象の1 回目の成績をもとに見積り誤差数の違いにより,見積り数よりも実際数が2 個以上少ない場合を過大評価群,2 個以上多い場合を過少評価群,1 個以下の場合を適切評価群の3 群に分類し,上肢機能の成績,見積り数,実際数を群間比較した.次に目標の違いにより目標無群,小目標群,過大目標群に分類し,1 回目と2 回目の実際数の差を3 群間で比較した.統計学的分析には一元配置の分散分析およびテューキーの多重比較検定を行い,5%を有意水準とし,統計解析ソフトはSPSSver20.0 を用いた.【説明と同意】対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】過大評価群は12 名,過少評価群は18 名,適切評価群は18 名であった.上肢機能の全対象の平均値は,ピン課題8.3 ± 1.5 秒,小球課題10.4 ± 1.7 秒であり,いずれの課題においても群間差を認めなかった.予測数の比較では過大評価群12.4 ± 2.4 個,過小評価群6.4 ± 0.9 個,適切評価群9.1 ± 1.2 個と過大評価群が最も多く,3 群間のいずれにおいても有意差を認めた.実際数では同様の順に8.5 ± 1.2 個,9.6 ± 0.7 個,9.1 ± 1.3 個であり,過大評価群が過小評価群に比べて有意に少なかった.目標設定の違いによる分析では,1 回目と2 回目の実際数の差は,目標無群1.0 ± 1.6 個,小目標群0.8 ± 1.6個,過大目標群0.9 ± 1.7 個と,3 群間に有意差を認めなかった.【考察】上肢機能の成績は見積り誤差数の差異に関連しなかった.また過大評価群は予測数が3 群間で最も有意に多かったのにも関わらず,実際数は過少評価群よりも有意に少なかった.このことから実施数を高く予期しても(すなわち自己効力感が高くても)運動パフォーマンスが高まらないと考えられた.先行研究では,自己効力感が高いほど運動パフォーマンスが高いと報告されているが,体操競技やテニスなどのダイナミックな運動課題についての研究である.Banduraは自己効力感における予期機能は,結果予期と効力予期の2 つのタイプから構成されると述べている.すなわち本研究で行った課題は非日常的な上肢の巧緻動作であり,対象者の趣味やQOLなどに直接関わるような課題ではないため,結果予期が行われても,効力予期への影響が少なかったと推察された.一方,目標設定の違いにより実施数に差が見られず,適切な目標を与えても結果には反映しなかった.すなわち目標設定の有効性は,与えられた目標を前向きに受け止め,更に積上げ数を増加させようとする動機づけにつながるかが重要であり,これには他の個人的な要因の関与が強いと考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,自己効力感の予期機能である結果予期だけが高くても,運動パフォーマンスは高まりにくいことがわかった.したがって行動変容には,結果予期だけではなく効力予期を高めたり,動機づけにつながるような適切な目標を提示することが重要であることが示唆された点において臨床研究として意義があると思われる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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