理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-45
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ポスター発表
ロボットスーツHAL福祉用を用いた立ち上がり動作へのアプローチ
元島 俊幸稲増 真利藤岡 知子渡辺 慎太郎
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キーワード: HAL, 立ち上がり, 頚髄損傷
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抄録

【目的】ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は、運動時に生じる生体電位信号をもとに、自発的な四肢の運動を補助してくれるものである。今回我々は、HALを動作練習に用いることで、動作学習を効率的に進め、基本的動作の獲得とADL能力の向上に繋げられるのではないかと考え、HAL導入による効果を検証することを本研究の目的とした。さらにロボットリハビリテーションの活用の可能性について検討することも目的とした。【方法】対象者は頚髄損傷患者(不全麻痺)2 名で、いずれも70 歳代男性である。対象者は約2 ヶ月間、下肢用HALを装着した立ち上がり動作の反復練習を実施し、HAL導入前後での立ち上がり動作を比較・分析した。HALを装着した立ち上がり動作練習の頻度は、週1 回程度である。分析方法は、HAL導入前とHAL導入から2 ヶ月後の立ち上がり動作をビデオにより矢状面から撮影し、肩峰・大腿骨大転子・膝関節前部・足関節外果を指標として、平面座標上に変換。立ち上がり動作は連続して2〜3回行って頂き、その平均値をとり、それぞれの指標の位置関係や指標の移動速度および移動距離を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究を実施するにあたり、当院設置の倫理委員会での承認を得た。また対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、本研究の主旨とHALに関する効果および副作用の説明を口頭ならびに書面にて十分説明し、書面にて同意を得た上でご協力頂いた。【結果】HAL導入前と導入2 ヶ月後の比較では、立ち上がり動作を完了するまでの時間、運動開始から離殿時までの肩峰の移動距離と移動速度に変化がみられ、いずれも導入2 ヶ月後の方が向上している結果となった。毎回のHAL実施前後での比較でも同様に、立ち上がり動作を完了するまでの時間、運動開始から離殿時までの肩峰の移動距離と移動速度に変化がみられ、いずれも導入2 ヶ月後の方が向上している結果となった。しかし、肩峰・膝関節前部・足関節外果のアライメントの変化はみられなかった。また、被検者からは「立ちやすくなった」「力の入れ具合が分かるようになった」など、HAL導入による良い効果を示す発言が得られた。【考察】今回の対象者は頚髄損傷患者で、その特徴として筋緊張が高くなりやすく、随意運動時に四肢・体幹の協調性が低下するという特徴を持っている。そのため、動作時にもスムースな運動やバランスの保持が困難となりやすいと言える。そこで、HALを装着することで過度な努力を抑え、最小限の筋収縮で動作を行うことを繰り返すことが、筋収縮レベルでの動作学習に繋がったのではないかと考える。また、筋収縮の程度や重心の位置をモニターで対象者自身が確認出来るため、視覚的フィードバックが可能であり、対象者は自分でどこに力が入っているのか、重心がどこにあるのかを確認しながら動作練習が行える点も、良い結果を生んだ要因と思われる。今回の研究では、動作時のアライメントにおいてHAL使用による変化はみられなかった。これは、対象者がHAL導入前から立ち上がり動作練習を日常の理学療法場面において行っており、HAL導入時点で既に立ち上がり動作が「できる」状態であったため、アライメントの変化は得られにくかったのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】HALを導入している病院や施設は増えているものの、客観的データを用いた検証は少なく、効果の有無については各施設内での評価に留まっているように思われる。今後、HAL導入による効果判定や評価基準の検討を行っていく中で、各施設の使用状況や評価方法などを表に出していくことで、ロボットリハビリテーションの可能性を広げることになり、障害者の機能改善や自立支援に役立つのではないかと考える。HALの使用についてはこれまで、装着に手間や人手が掛かるという問題点や費用の問題などが指摘されているが、今回の結果からは、それらのマイナス面を大きく上回る効果を得ることができたと考える。さらに、今回は立ち上がり動作のみを研究課題としたが、同対象者において、歩行動作でも体幹動揺の減少やストライドの拡大、歩行速度の向上など、良い効果が得られており、今後さらに理学療法場面での活用の機会を増やしていきたいと思う。

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© 2013 日本理学療法士協会
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