理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-52
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ポスター発表
人工膝関節全置換術施行患者における主観的評価の経時的変化と外的妥当性の検討
田中 真希平野 和宏鈴木 壽彦五十嵐 祐介石川 明菜姉崎 由佳樋口 謙次中山  恭秀安保 雅博
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抄録

【目的】当院では2010 年4 月より人工膝関節全置換術(以下TKA)施行患者に対して、本学附属4 病院(以下4 病院)で共通の身体機能評価表および患者の主観的な評価で構成された問診表を作成し、TKA前後の評価を統一する試みを開始した。この問診表の評価指標としての信頼性は、第47 回日本理学療法学術大会において、高い内的整合性が認められたことを報告している。先行研究では、WOMACは術後4 週では変化しにくく、長期的な予後の検討に有効な評価と報告されている。また、1 施設あるいは特定の施設のみでは結果を一般化するには限界があると報告されているが、多施設間で統一した評価を用いた報告は散見されるのみである。4 病院は急性期病院であるが、病院としての機能や立地環境も異なる。また、術後翌日に離床、歩行開始となる病院から術後2 日目に離床、5 から7 日目で歩行開始となる病院があり、退院時期も3 週間から4 週間と各病院でプロトコールが異なる。そこで本研究の目的は、4 病院で使用している共通の問診表による主観的評価の経時的変化と外的妥当性を検証することとする。【方法】2010年4月から2012年8月までに4病院で変形性膝関節症と診断され、初回片側TKAを施行した症例を対象とした。問診表は、自己記入式質問紙法であり、「生活動作」、「疼痛」、「満足度」の3下位尺度を5段階スケール(楽にできる、痛くない、満足:5 点〜できない・やっていない、激しく痛む、不満足:1 点)で回答する形式とし、「生活動作16 項目」、「疼痛8 項目」、「満足度7 項目」の全31 項目を設定した。調査内容は、4 病院の術前、術後3 週、術後8 週、術後12 週の各評価時期における「生活動作」1)寝起き、2)着替える、3)洗面動作、4)トイレ動作、5)座り仕事または家事、6)立ち仕事または家事、7)階段を昇る、8)階段を降りる、9)靴下をはく、10)足の爪を切る、11)荷物を持つ(買い物)、12)歩く、13)お風呂に入る、14)床の物を拾う、15)転ばずに生活する、16)歩き以外の移動動作、の16 項目の合計点とした。問診表の全項目に回答可能であった症例は、術前157 例(平均年齢74 ± 7 歳、A病院78 例、B病院18 例、C病院37 例、D病院24 例:以下同順)、術後3 週169 例(平均年齢74 ± 8 歳、78 例、40 例、29 例、22 例)、術後8 週134 例(平均年齢74 ± 7 歳、62 例、43 例、12 例、17 例)、術後12 週117 例(平均年齢74 ± 7 歳、53 例、41 例、8 例、15 例)であった。各病院の各評価時期の平均値を算出し、統計解析には各病院および各評価時期を要因とした二元配置分散分析を行い、主効果を認めた場合にはBonferroniの多重比較検定を用いて検定した。【倫理的配慮】本研究は本学倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言に則り実施した。【結果】「生活動作」の平均値は、A病院:術前54.4、術後3 週52.9、術後8 週53.9、術後12 週49.2(以下同順)、B病院55.2、56.0、58.4、58.1、C病院52.8、53.9、57.0、60.9、D病院50.7、49.2、56.6、60.5、となり、各病院間で有意差を認めなかった。また、各評価時期で有意差を認めた(p<0.01)ことから、評価時期のみ主効果を認める結果となった。各評価時期においてBonferroniの多重比較検定の結果、生活動作では術前と術後8 週、術後3 週と術後8 週でp<0.05、術前と術後12 週、術後3 週と術後12 週でp<0.01 の有意差を認めた。【考察】各病院間で有意差を認めなかったことから、「生活動作」における主観的評価は4 病院でのプロトコールの違いによる影響を受けないことが示唆され、外的妥当性が認められたと考える。一方で、各評価時期で有意差を認めたことから、「生活動作」における主観的評価は回復過程に応じて変化することが示された。まず、術前と術後3 週で有意差を認めなかったことから、先行研究と同様の結果となり、術後8 週以降から変化を認める結果となった。術後3 週は入院中か退院直後であり、立ち仕事や荷物を持つなどの立位動作を行っていない場合が多いことから、主観的評価の点数が低かったと考えられる。一方、術後8 週と術後12 週以降になると院内から自宅への生活に移行することから、立ち仕事や荷物を持つ、階段昇降などの立位動作の機会が増えることや外出などで活動範囲が拡大するため、主観的評価の点数が高くなったと考えられる。今後は、他の下位尺度についても同様の検討を行い、問診表全体の外的妥当性を確認することが課題である。【理学療法学研究としての意義】当問診表の「生活動作」においては4 病院間でのプロトコールの違いによる影響を受けないことが示された。今後は、問診表全体の外的妥当性を確認し、理学療法介入効果を評価するうえで有用な評価指標とすることが課題であり、このことは、理学療法評価および治療の標準化において意義があることと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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