抄録
【はじめに、目的】パーキンソン病の患者において、すくみ足は転倒の危険因子とされている。第一報では、方向転換時にすくみ足を呈し転倒を繰り返す患者に対し、足関節矯正起立板(以下、起立板)を用いたExの効果について報告した。しかし、改善の要因を明確にすることができなかった。本研究の目的は、起立板Exに含まれる要素を明確にし、より効果的な介入方法を検証することを目的とした。【方法】対象は74歳、女性、Hoehn-Yahr重症度分類にて重症度Ⅲ、UPDRSは34点、パーキンソン病の罹病期間は約6年である。外来にて週2回の頻度でリハビリテーションを行っている。研究デザインはシングルケースデザイン(操作交代デザイン)を用いた。独立変数は、起立板10°上で立位保持1分(膝屈曲位にて臀部を傾斜板85°から一横指離す)を介入A、起立板0°上で立位保持1分(膝伸展位にて臀部を傾斜板85°から一横指離す)を介入B、起立板10°上で立位保持1分(膝伸展位にて臀部を傾斜板85°から一横指離す)を介入Cとした。介入は毎回の運動療法後に行い、その順序はABCBACBCA、回数は計9回、3セッションとした。従属変数は、立位にてその場で360°回転するのに要する時間とし、右回りと左回りの合計値(以下、立位回転速度)を用いた。測定は各介入の前後に実施し、その差を改善度とすることで介入A、介入B、介入Cの効果を比較検討した。薬の影響を考慮し、服薬時間が一定であることを確認の上、治療と測定は毎回同一の時間帯で行った。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り、対象者には本研究の趣旨について事前に十分な説明を行い、同意を得たうえで実施した。【結果】立位回転速度の改善度は、各セッションの順に、介入Aが16.98秒、-14.02秒、-20.79秒、介入Bが-26.22秒、-56.80秒、-10.07秒、介入Cが3.96秒、10.65秒、26.37秒であった。介入Cでは、各セッションで立位回転速度に改善がみられた。介入Bでは遅延がみられた。介入Aではセッションによって改善する場合と遅延する場合があった。【考察】数あるすくみ足の要因の中で、起立板Exが関与するのは、すくみ足直前の足関節周囲筋の筋放電タイミング異常、姿勢反射障害と思われる。第一報では、起立板Exにおいて下腿三頭筋の伸長のみではすくみ足の改善がみられなかった。それに対し、本研究では介入Bと介入Cの結果の比較から、下腿三頭筋の伸長なしに足・股関節戦略を用いた重心の前方保持のみを行っても、すくみ足に対する効果はないと考えることができる。両者の結果から、下腿三頭筋の伸長および足・股関節戦略を用いた重心の前方保持を同時に行うことが、すくみ足の改善に関与すると思われる。一方で、介入Aは上記要素が少ないにも関わらず、すくみ足が改善するセッションが存在した。これは、膝関節角度の条件設定が明確でなく、下腿三頭筋の伸長程度や足・股関節戦略動作が一定でなかったためと考える。【理学療法学研究としての意義】起立板Exは省スペース、短時間で実施可能で、内容も簡潔であるため、ホームエクセサイズに適していると思われる。すくみ足にはいくつかのパターンがあるとされているが、今後症例を重ねることでその効果を他症例でも認めることができれば、すくみ足に対する有効なExになると思われる。