抄録
【目的】脳卒中急性期理学療法では最終的な能力予後についての判断を求められることが多い。中でも障害残存より回復期へ転科した患者の回復期リハビリ病棟(以下、回復期)退院時に獲得している能力は家族の介護負担に直結することより正確な情報が強く求められる。これまで、発症初期のNational Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS)の麻痺側下肢運動項目での歩行能力予測や発症10日目の座位と下肢麻痺より歩行自立を予測などの報告があるが、いずれも歩行予後に関するもので車いす移動・トイレ動作なども含めた全般的な動作能力の予測の報告は見当たらない。急性期ではリスク管理より評価姿勢・評価項目には制約がありその選択を困難にしている。さらに日を追って変化がみられる急性期患者での評価時期にも難渋している。Impairment Assessment Set(以下SIAS)は、脳卒中患者の機能を高次脳機能も含め多面的に評価これに非麻痺側機能をいれた総合評価で短時間で実施でき環境も選ばない。また、発症2週間目は急性期での治療が概ね終了している時期で評価を適切に実施できる。我々は第26回鹿児島リハビリテーション医学研究会にて脳卒中発症2週間目のSIAS評価よりFunctional Independence Measure(以下FIM)で評価した急性期退院時能力の予測が可能なことを報告した。本研究では、ここでSIASを評価し回復期転科になった患者の回復期退院時能力を再びFIMで評価、脳卒中発症2週間目SIASでの回復期退院時能力予測の可能性を前向きに検討した。【方法】対象は、2011年6月から2012年6月に当院脳卒中センターに入院した脳卒中患者で当院回復期へ転科になった46名(平均年齢71.6±11.6歳、男性20名、女性26名、脳梗塞34名、脳出血9名、クモ膜下出血3名、急性期病棟入院日数29.8 ±13.4日、回復期退院までの入院日数124.5±67.7日)である。除外基準は回復期転科後再発したもの、他疾病にて転院・転科になったものとした。方法は急性期での機能評価を発症2週間目にSIASで行い、その後同対象者の回復期退院時能力をFIMで評価した。どちらも評価不可能項目は、SIASでは0、FIMでは1とした。解析は発症2週間目SIASと回復期退院時FIM総点・運動FIMとの関係をSpearmanの相関関係係数とχ²検定を用いて検討した。次に運動FIMを目的変数、SIAS各項目を説明変数に、Stepwise法による重回帰分析を実施した。さらに重回帰分析でFIMとの関連が認められたSIAS項目での段階別のFIMに群分けしSteel-Dwass検定を用いて群間の差を検討した。最後にFIM各項目を目的変数・SIAS各項目を説明変数にした重回帰分析を行った。いずれも統計処理にはJMP9.02(SAS)を用い有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。対象者には事前に研究の概要を十分説明し同意を得た。【結果】発症2週間目SIAS総点は回復期退院時FIM総点と(R²=0.34)、運動FIMと(R²=0.35)の相関が認められた(全てp <0.01)。次に回復期退院時運動FIMを目的変数にSIASの項目を説明変数にstepwise法による重回帰分析を行なった結果、垂直性・視空間認知・股関節麻痺・足関節麻痺・足関節ROM・非麻痺側四頭筋が上位項目として挙がった(R²=0.62)。ここで挙がったSIAS項目(垂直性・視空間認知・股関節麻痺・足関節麻痺・足関節ROM・非麻痺側四頭筋)の段階別で群わけした各群運動FIMの群間比較では全てに有意な差が認められた(p<0.05)。次に退院時各FIMを目的変数にした重回帰分析を行った結果、FIM車いす移乗動作で同SIAS項目に麻痺側下肢筋緊張が加わり(R²=0.56)、FIMトイレ動作では非麻痺側握力が追加された(R²=0.63)。FIM歩行はさらに肩関節麻痺・肩関節ROM・上肢触覚が加わった(R²=0.63)。【考察】今回脳卒中発症2週間目のSIAS評価で回復期退院時運動能力の予測の可能性が示唆された。我々の先行研究での急性期退院時能力予測の検討では予測に有意な上位項目としてSIAS体幹機能項目(垂直性・視空間認知・腹筋)が挙がったが、回復期退院時はこれに股関節麻痺・足関節麻痺・足関節ROM・非麻痺側四頭筋などの麻痺の程度・非麻痺側機能が加わっていた。さらに、回復期退院時能力項目ごとの予測もSIAS各項目の選択より可能なことが示された。【理学療法学研究としての意義】評価は「リハビリテーション総合実施計画書」作成や患者家族への説明などに必要な予後の判断において、客観性を持った指標にならなくてはならない。また、能力予測は患者の生活や社会的背景の個別性を配慮すると項目別の予測が必要になる。本研究結果から得られたSIAS評価での回復期終了時期の能力予測に関する知見は今後の脳卒中急性期理学療法実践での適切な目標設定の一助になるものと考える。