理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-12
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一般口述発表
Contraversive pushingの改善にsubject visual verticalityの偏倚は関与するのか?
辻本 直秀阿部 浩明大鹿糠 徹大橋 信義髙橋 千晴齋藤 麻梨子
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抄録
【はじめに】自覚的視覚的垂直位(subject visual verticality:以下、SVV)とは、物体が垂直か否かを視覚的に判断するものである。近年、脳損傷後の特徴的な姿勢定位障害であるcontraversive pushing(以下、pushing)においても、その異常姿勢の背景としてSVVが調査されており、pushing例のSVVには健常人ではみられない異常が存在すると報告されている。我々は先行研究において、pushing例のSVVに着目し、pushingの重症度とSVVの偏倚との関連性を調査した。その結果、pushingの重症度とSVVの偏倚に相関がみられた。本研究では先行研究でみられたpushingの重症度とSVVの偏倚との関連性を再検証する目的で、発症早期からSVVの測定が可能なpushing例を対象とし、pushingの回復経過とSVV偏倚の経過を調査した。【方法】対象は、Scale for Contraversive Pushing(以下、SCP)にて各下位項目>0を満たす初発脳卒中片麻痺患者(テント上病変)とした。意識障害(JCS:10以上)を呈する者、重度の注意障害や失語症、精神障害を呈する者、重度の視力、視野障害を呈する者、前庭機能障害の既往や眩暈の訴えがある者は対象から除外した。これらの除外基準に該当せず、発症早期からSVVの測定が可能であったpushing例7名(右半球損傷例5名、左半球損傷例2名、発症から初期評価までの期間:8.0±2.7日)を対象とした。また、Edinburgh Handedness Inventoryにて全例が右利きであることを確認した。 SVVの測定は、静かな暗室で実施した。ヘッドレスト付き座位装置を用いて、被検者の頭部と体幹が正中位になるようにベルトにて固定した。座面の高さは、股関節、膝関節が約90度屈曲位、足底が床面に全面接地する高さに設定した。直径20cmの円盤に幅1cmの発光シールを張り付けたSVV測定装置を用意し、この円盤の中心を被検者の目の高さで前方約50cmに設置した。発光シールを左または右方向へ45°以上傾斜させた位置から、円盤の側面に取り付けた紐を非麻痺側上肢で水平方向に操作することでロッドを垂直にする課題を実施し、垂線からの誤差角度を測定した。課題は各方向を4回ずつ、計8回施行し、絶対値の平均(以下、SVV値)を算出した。測定期間は初期評価から3週間とし、週2回ずつ、計6回のSCPとSVVを測定した。 統計処理は、初期評価から3週間後までの計6回のSCP、SVV値の経時的変化を分散分析および多重比較検定にて検討した。また、計6回のSCPとSVV値との相関をPearsonの相関係数にて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】すべての対象者に本研究の主旨を説明し同意を得た。【結果】初期評価から3週間後までのSCP、SVV値はいずれも統計学的に有意な減少を示した。多重比較検定では、SCPは3回目の測定にて初期評価時と統計学的有意差(初期:4.3±1.5、3回目:2.1±1.3、p<0.05)がみられ、SVV値は4回目の測定にて初期評価時と有意差(初期:4.4±2.6°、4回目:2.5±1.4°、p<0.05)がみられた。SCPとSVV値との相関においては、初期評価を含めいずれの時期においても統計学的に有意な相関はみられなかった。【考察】本研究では、pushing例のSVVに偏倚はみられたが、初期評価を含めいずれの時期においてもSCPとSVVには相関はみられなかった。また、pushingとSVVの偏倚が改善する時期には乖離が存在した。このことは、pushing例のSVVには偏倚が存在するものの、この偏倚はpushingの重症度と関連性はなく、また、pushingの改善は偏倚したSVVの改善よりも早期に起こり、SVVの改善とは独立していることを示唆していると推察される。すなわち、pushingの改善においてSVVの偏倚にみられるような外部中心座標系の空間認知の異常の改善は決定的な関与をせず、治療においては重要視すべき要因とは言い難い可能性があることを示唆するものと思われた。  我々の先行研究では、pushing例のSVVは偏倚し、この偏倚はpushingの重症度と相関することを示した。先行研究と今回の結果が異なった要因には、対象者選定条件の相違があったのではないかと推察される。先行研究では、初期に注意障害などの高次脳機能障害がみられた症例でもSVVが測定可能となった日に測定を実施した。それに対して今回の調査では、早期から測定可能な症例のみを対象としている。今後は対象選定条件を考慮し、かつ十分な対象者数を得て、pushingとSVVの偏倚との関連性を明らかにしていきたい。【理学療法学研究としての意義】既に複数の先行研究において、脳損傷後にpushingを呈した症例の自己中心座標系の空間認知の異常が明らかになっている。本研究の結果は、pushing例に対する理学療法介入を検討するに際して、外部中心座標系の異常を考慮した介入よりも、自己中心座標系の異常を修正していくことに重点を置いた介入を選択していくことの重要性が示唆されたものと思われる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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