抄録
【はじめに、目的】近年,深部体温を1℃上昇させる温熱負荷(Thermal Simulation; TS)の反復は血管内皮機能を改善させることが明らかとなり、慢性心不全治療の高度医療として認められるまでに至った。主役は一酸化窒素(Nitric Oxide; NO)であり、大動脈や中大動脈を弛緩させることで心臓の負担を軽減させる。一方、41℃、10分間の温水浸は糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate; GFR)を変化させずに腎血流を増加させる。輸出入細動脈の両方に温熱性血管拡張を生じていることが考えられ、TSの反復により腎糸球体の血管内皮機能改善が改善し、尿蛋白が減少すれば、腎機能障害の進展を抑制できる可能性がある。そこで慢性腎不全(Chronic Kidney Disease; CKD)モデルを作成し、温熱刺激反復後の腎組織でのeNOS mRNAの発現をReal time-Polymerase Chain Reaction(PCR)で確認することを目的とした。【方法】マウス(C57BL/6N)を用いて、5/6腎摘除(Nx)によるCKDモデルを作成し、無作為に偽手術+非温熱(sham-non-TS, n=6)、偽手術+温熱(sham-TS, n=6)、Nx+非温熱(Nx-non-TS, n=5)、Nx+温熱(Nx-TS, n=5)の4群に分けた。1日1回温熱刺激に暴露させ、12週後に体重、収縮期血圧を測定(tail-cuff法)し、代謝ケージを用いて24時間蓄尿量、水分摂取量を確認した。血液・生化学検査では、クレアチニン、尿蛋白を確認した。最後に残存腎臓を摘出し、Real time PCRでeNOS mRNAを定量化した。温熱刺激には電熱式による対流温熱(EKK-450, AS ONE)を用い、深部体温を1℃上昇させるために41℃で15分間加温し、その後32℃で20分間保温した。統計学的分析にはANOVA、mann-whitney testを用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】マウスは、12時間サイクルの明暗、適度な温度湿度に自動制御された部屋で飼育され、餌、水に自由にアクセスできた。手術およびSacrificeでは十分に麻酔(Pentobarbital; 50mg/kg)が効いたことを確認し、痛みが伴わないように配慮した。本実験は熊本保健科学大学動物実験委員会の許可を得て実施された。【結果】Nxモデルは偽手術に比して有意な血清クレアチニンの上昇が認められた。温熱刺激の反復12週後、Nx-non-TSおよびNx-TS groupの体重は開始時から98.8%、101.7%増であった。血圧は110.7±12.2mmHg、104.0±10.7mmHgで有意差は認められず、尿量や水分摂取量でも有意差は認められなかった。Real time PCRによる解析でNx-TSのeNOS mRNAの発現量は、Nx-non-TSに比して約1.3倍の有意な増加が認められた。両群間のクレアチニンクリアランス(CCr)に有意差は認められなかった。【考察】C57BL/6Nは遺伝的特徴から腎臓の耐性が高くCKDの進展が極めてマイルドであるため、術後に尿蛋白や血圧に差は認められなかったが、血清クレアチニンの有意な上昇が認められ腎不全モデルの完成が確認された。腎臓は血漿の濾過を通して体内のホメオスタシスに重要な役割を持ち、高圧系臓器として常に高いストレスにさらされている。代償期腎不全ではGFRを維持するため残された糸球体に負荷がかかり、過剰濾過となりCKDをさらに進展させる要因になる。今回遺伝子レベルで、腎細動脈でeNOS mRNAの発現が増加しており、糸球体の血管内皮機能改善が期待できる。また、温熱負荷の有無でCCrに差は認めず、温熱負荷に伴う脱水の影響等、腎への有害作用はないと考えられた。【理学療法学研究としての意義】腎組織内でeNOS mRNAの発現の増加、およびCCrが変わらないという結果は、温熱性血管拡張による圧ストレスの軽減、および尿中へのアルブミン排泄量を減少させる可能性を示唆する。また、運動に腎保護作用があることは既知だが、温熱の腎保護作用が確認できれば、運動機能障害や運動制限のある患者へも適応がさらに拡大する。本実験は、熊本保健科学大学の学内研究助成を受けて実施された。