理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-52
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ポスター発表
後ろ歩きの足関節に関する研究
曽田 直樹植木 努
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抄録
【はじめに】後ろ歩き(以下,後方歩行)はバランストレーニングや転倒予防またその評価など様々な場面で用いられる動作である.後方歩行の動作分析では,関節運動において前方歩行の逆の運動パターンを示し運動軌跡は類似しているという報告や歩幅や速度の違いからその運動パターンは異なるという報告など関節の動きを見た報告は散見されるものの運動力学的解析を行った報告はほとんどない.運動力学的要素の一つに足関節パワーがある.足関節パワーは前方への推進力を評価するための一つの指標である.足関節パワーは,関節モーメントの値に角速度を乗じた値により算出され,正のパワーはエネルギー生成を示し,求心性収縮と一般的に関係している.一方,負のパワーはエネルギー吸収を示し,遠心性収縮と関係する.従って前方歩行で起きる足関節底屈(蹴り出し)は,足関節の正のパワーとしてその大きさが示される.そしてその役割は歩行中の前方への推進力と安定性,遊脚期に入る前の下肢の前方への振出しに貢献している.このように足関節パワーの解析はその動作を理解する上で重要な指標であると考えられる.そこで本研究の目的は,三次元動作解析装置を用い後方歩行の足関節における運動学的及び運動力学的特徴を明らかにすることとした.【方法】対象は健常成人11 名(女性4 名,男性7 名,年齢23.8 ± 4.6 歳,身長167.5 ± 8.5cm,体重59.9 ± 12.6kg)とした.測定には,三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製,カメラ6 台、サンプリング周波数100Hz)および3 台の床反力計(サンプリング周波数1000Hz)を使用し,前方と後方の歩行動作を計測した.直径14mmの赤外線反射マーカーをPlug-in-gait full body model (VICON社製) に準じて所定の位置に計35 個貼付した.測定課題は,前方と後方への自然歩行(速度,歩幅は任意)とし,それぞれ数回ずつ行い安定した歩行が行われた各3 施行分のデータを解析に用いた.解析区間は左下肢の立脚期とし,解析項目は歩行時間,足関節最大背屈・底屈角度,矢状面における足関節パワー(角速度*関節モーメント:W/kg)のピーク値,足関節における力学的な仕事(足関節パワーの積分値),仕事率(仕事量/時間)とした.なお仕事量に関しては足関節のパワー曲線に基づいて足関節底屈が行われている(足関節パワーが正のピーク値を含んだ)区間の解析を行った.統計学的分析は,前方歩行と後方歩行のそれぞれの項目を対応のあるt検定を用い比較した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮】対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて同意を得た.なお本大学の倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言を遵守しながら実施した.【結果】歩行時間および底屈角度に関しては前方歩行と後方歩行で有意な差は認められなかった.背屈角度において前方歩行13.7 ± 4.4 度,後方歩行20.8 ± 5.5 度と後方歩行が有意に高い値を示した.足関節パワーでは前方歩行3.3 ± 0.7W/kg,後方歩行1.7 ± 0.5W/kg,仕事量では前方歩行29.7 ± 7.5W/kg,後方歩行20.8 ± 7.1W/kg,仕事率では前方歩行1.7 ± 0.3W/kg/ms,後方歩行0.6 ± 0.1W/kg/msと足関節パワー、仕事量、仕事率において後方歩行が有意に低い値を示した.【考察】後方歩行は前方歩行と比較し足関節パワーと仕事量で有意に低い値を示した.今回の歩行では歩行時間に有意な差がなかったことから後方歩行では足関節パワーによる推進力への貢献度が低いことが考えられる.前方歩行における足関節パワーは,筋による底屈運動に加えて非収縮要素であるアキレス腱の伸張性をばねにした(弾性エネルギーを用いた)底屈運動により発揮される.しかし後方歩行において,足関節底屈パワーが発揮される直前の背屈角度が大きかったにもかかわらず足関節パワーが低値だったのは、後方歩行は非収縮要素による弾性エネルギーの影響をあまり受けないことが推測される.また仕事率においても後方歩行で有意に低い値を示した.前方歩行は歩行が進むにつれて足関節底屈のモーメントアームが大きくなるが,後方歩行は歩行が進むにつれて足関節底屈のモーメントアームが小さくなっていく.つまり後方歩行は足関節のパワー発揮に不利な動作であり,これらのことが仕事率の低下につながった要因のひとつであると考えられる.【理学療法学研究としての意義】後ろ歩きをベースとしたトレーニングや評価においてより効果的な運動療法を提供できると考える.また動作を理解で足関節パワー値は重要な指標であると考えられる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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