理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-30
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ポスター発表
足底における2 点識別覚の加齢による変化
竹田 圭佑千鳥 司浩
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抄録

【はじめに、目的】ヒトの空間移動のための基本的な動作である歩行において視覚系、前庭迷路系、体性感覚系からの情報は重要な役割を果たしている。特に、立位で唯一地面と接触している足底部からの感覚は変化する姿勢や地面の状態を適切に把握し、足関節による力発揮の程度を調節するために重要である。なかでも空間分解能として加齢を反映するとされている2 点識別覚は立位でのバランス能力と関連が深いことが報告されている。先行研究では加齢により2 点識別覚は低下し、片脚立位保持時間に短縮がみられることが報告されているが、いずれの報告でも拇趾あるいは踵部の2 点識別覚の報告しか存在しない。しかし歩行時の足圧中心の移動を考慮すると、これ以外に小趾球や拇趾球を含めた部位で加齢による変化を検討する必要がある。本研究の目的は、重心移動に関わる拇趾、拇趾球、小趾球、踵における2 点識別覚の加齢による変化および片脚立位保持時間との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は事前の説明により研究参加に同意の得られた65 歳以上の地域在住高齢者39 名、78 肢(男性8 名、女性31 名、平均年齢76.3 ± 5.5 歳;高齢者群)、対象群として骨関節・神経筋疾患を有さない健常若年者30 名、60 肢(男性11 名、女性19 名、平均年齢23.0 ± 2.1 歳;若年者群)とした。2 点識別覚の計測にはデジタルノギス(プラタ社製)を使用し、ベッド上仰臥位で裸足にて、左右の拇趾、拇趾球、小趾球、踵の8 点に対し足底に2 点を同時に触れたとき2 点として識別できる最小距離を測定した。2 点識別覚距離の決定として、同一の距離で3 回施行し2 回以上の正答が得られた部位を最小距離とした。また高齢者群のみについて開眼片脚立位保持時間を計測し、60 秒を上限値とした。統計分析には、年齢と測定部位の2 変数を独立変数とし、2 点識別距離を従属変数とする二元配置分散分析およびScheffeの多重比較検定を用いた。また、高齢者群のみ開眼片脚立位保持時間と各測定部位における2 点識別距離との関係にはスピアマン順位相関係数を求めた。統計ソフトはStatcel Ver2 を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には試験説明書に基づき、本研究の目的と方法を文書と口頭で十分に説明し、自由意思に基づく研究参加として同意を得た。【結果】測定部位ごとの2 点識別距離について高齢者群と若年者群を比較すると、高齢者群の平均値は、拇趾17.1 ± 7.3mm、拇趾球17.2 ± 7.9mm、小趾球20.7 ± 8.9mm、踵22.6 ± 10.4mmに対し、若年者群ではそれぞれ平均7.7 ± 2.1mm、11.1 ± 2.8mm、11.5 ± 2.5mm、12.3 ± 3.0mmであり、高齢者群が各測定部位において有意に高値であった(p<0.01)。また、4 つの測定部位間の比較においては高齢者群で拇趾と踵、拇趾球と踵において有意差が認められ、若年者群は有意な差は認められなかった。さらに、高齢者群の開眼片脚立位保持時間と2 点識別距離の関連性については、拇趾(r=-0.34、p<0.01)、拇趾球(r=-0.36、p<0.01)、小趾球(r=-0.46、p<0.01)、踵(r=-0.46、p<0.01)と有意な負の相関を認めた。【考察】従来、報告されている測定部位である拇趾、踵に加え拇趾球、小趾球を含めて2 点識別覚の測定を行った結果、若年者に比べ高齢者では顕著な低下を認め先行研究と一致していた。また若年者では足底部位間の2 点識別覚の有意な差は認められなかったが、高齢者では拇趾、拇趾球に比べ踵では有意な低下を示し、加齢による踵部の感覚閾値の増加が認められた。このことより高齢者における足底感覚の低下は均一に生じるのではなく、踵部で著しいことが示唆された。さらに高齢者における各測定部位の2 点識別距離と開眼片脚立位保持時間には中等度の相関関係が認められ、加齢による足底感覚の低下が片脚立位保持時間に影響を及ぼす一要因であることが考えられた。Melzerらは足底感覚の低下は転倒が生じた際、足底で足圧中心の移動を知覚することができずステッピングや足趾把持運動の反応時間が遅延することを推測している。以上のことより高齢者に対し踵部を中心に足底感覚の弁別閾を向上させる介入を検討する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究により、高齢者では若年者に比べ踵部の2 点識別覚が有意に低下しており片脚立位保持能力に関連していることが明らかになった。このことから高齢者の立位および歩行の安定性評価において踵部の2 点識別覚検査は転倒予防などの観点から臨床上有用な評価の一つになると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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