抄録
【目的】 近年、尿漏れ対策や姿勢保持において骨盤底筋群の重要性が言われており、PTがアプローチする機会も増えている。しかしながら骨盤底筋群は、解剖学において指導を行いづらい筋である。その要因として、複数の筋が協調して機能しているにもかかわらず、多くの教科書や参考書において股関節周囲筋と泌尿器に属する会陰の筋に分類がまたがること、深層にあるため視察・触察が困難で故に2次元のイラストを見てもイメージが湧かないこと等が考えられる。今回、股関節周囲筋と会陰の筋を統合して理解することを目的に、ペーパークラフトを利用して骨盤底筋群を立体的に構成する授業を行い、学生の理解に一定の成果が見られたのでここに報告する。【方法】 本校は3年制理学療法士養成課程であり、第1学年において解剖学の履修を行う。平成23年度第1学年(在籍者数6名)を対象に、泌尿器系と筋系の講義を終えた時点で解剖学の講義の中でペーパークラフトを用いた骨盤底筋の学習を行い、後日感想の提出を求めた。感想の記述はA4版白紙に自由記述させた。学習の手続きは、50分2時限の計100分の授業時間で、教科書と配布資料により筋名・起始・停止・走行・支配神経・作用を確認した後、オリエンテーションから切り抜き・構成・確認作業を行った。A4版コピー用紙にコピーした骨盤底筋群のパーツを学生個々が切り抜き粘着テープを用いて骨盤模型(京都科学A23A)に対して立体的に構成を行った。作成した筋は、内閉鎖筋、肛門挙筋、会陰横筋、梨状筋、尾骨筋である。模型の構成中や構成後に、骨盤模型に対して各筋の起始・停止、肛門三角と尿生殖三角、坐骨直腸窩、大・小坐骨孔、梨状筋上・下孔それぞれの確認を行った。学生からの感想はKJ法により分類した。【説明と同意】 本研究における趣旨として、日本理学療法学術大会での発表がありうること、匿名による感想の公表がありうることなど、十分な説明を行った後に同意を得た。【結果】 学生の感想は概ね好評であった。筋の起始・停止がイメージしやすかった、筋の位置や走行を3次元で考えることができた、筋どうしや骨盤との位置関係が理解できたといった意見が多く出された。また、筋の大きさや形状を捉えやすい、記憶に残りやすい、骨盤底筋以外の部位にも応用できそうだとの意見もあった。批評的な意見としては、骨模型に付ける過程が難しかった、脈管・神経もあればよかった等が挙げられた。少数意見には、模型を完成させたという達成感を味わった、切り抜く前に立体を想像する力を身につけた、ファイリングができる、自分たちで筋の形を書いて切り取っても覚えやすい等が挙げられた。【考察】 骨盤底筋群の学習は学生にとって困難であることが前年度までの学生からのフィードバックにより明らかとなっていた。これは講義に対する学生の反応から受ける印象とも合致するものであった。要因としては、構造が複雑なこと、深部にあること等により、教科書や参考書の図譜の理解が学生にとって困難であることが考えられた。授業改善の試みとして筋系と泌尿器系に分かれている骨盤底筋群を統合して学習する機会を設定することにより、今回の目的の一つである、全体としての理解が得られたと考える。立体的な理解においては、骨盤模型に自分で構成して当てはめていくという作業が有効であったと考える。ペーパークラフトの学習においては、聞く、見るだけでなく、手を動かし構成を考える作業が必要となる。こられの作業も理解を深めた大きな要因であると考える。今回は工程が煩雑になるとの懸念から脈管神経を配置する作業は行わなかった。しかし骨盤周囲の全体像を理解するためには、考慮する必要があるかもしれない。本校は視覚特別支援学校なので、見えづらいものを見やすくする、あるいは視覚以外の情報に置き換えることが授業開発の中で求められる。今回の手法は、視覚障害を持たない学生にも応用可能であると考える。ただし、一学年定員8名の少人数クラスでの指導なので、大人数のクラスを対象にした場合は手法の変更が必要かもしれない。【理学療法学研究としての意義】 PTにとって解剖学的知識は重要である。今後解剖学教育を充実させるため、ペーパークラフトの有効性を検証する必要がある。また、他部位への応用も考えられる。