抄録
【目的】 本研究は,理学療法学科学生が抱いている脳血管障害のイメージについて,日常生活活動(ADL)を基に客観的指標で検討することを目的とした。異学年で同一調査を試み,脳血管障害者に対する学年間の障害イメージの相違について比較検討した。【方法】 対象は本学理学療法学科学生163名で,1年生47名(男性24名,女性23名),2年生56名(男性30名,女性26名),3年生60名(男性33名,女性27名)とした。 方法は,改訂版Barthel Index(BI)を用いて調査用紙を自作し,脳血管障害者に対する学生のイメージについて学年ごとに調査した。改訂版BIは15項目(115点満点)で構成されており,各項目は4段階での評価(I:自立,II:補助具で自立,III:一部介助,IV:全介助)となっている。BI各項目のIとIIを自立のイメージ,IIIとIVを要介助のイメージとして学生の割合を算出し,学年間の相違を比較検討した。 統計学的手法は,BI総得点および各項目の各学年間の相違について,Kruskal-Wallis検定後,Mann-WhitneyのU検定,Bonferroniの不等式による修正を行った。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に則り,全対象者には本研究の目的と内容を書面と口頭で説明し,調査用紙の提出をもって同意を得たこととした。なお,本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得た(承認番号12-37)。【結果】 脳血管障害者に対する学生のイメージは,BI総得点の中央値で1年生65.0点,2年生70.0点,3年生65.5点であり,学年間に差はなかった。全学年の結果において,BI各項目で自立のイメージである項目は,「食事(73.6%)」,「椅子への移動(60.7%)」,「整容(53.4%)」,「トイレへの移動(52.8%)」であった。一方,要介助のイメージである項目は,「入浴(85.3%)」,「浴室・浴槽への移動(83.3%)」,「階段昇降(80.4%)」であった。 各学年で自立のイメージである項目は,1年生「整容(76.1%)」,「食事(73.9%)」,「椅子への移動(60.9%)」,「トイレへの移動(60.9%)」,2年生「椅子への移動(76.8%)」,「食事(62.5%)」,「トイレへの移動(58.9%)」,3年生「食事(85.0%)」,「歩行不能の場合,車椅子で50m以上移動(63.3%),以下車椅子50m」,「装具の装着(56.7%)」であった。一方,要介助のイメージである項目は,1年生と2年生が「入浴」,「階段昇降」,3年生は「浴室・浴槽への移動」,「入浴」であった。特に「入浴」と「階段昇降」は全学年で要介助のイメージである学生の割合が多かった。 BI項目のイメージで各学年間に有意差があった項目は次の5項目であった。「食事」は2,3年生で差があり,両学年とも自立とイメージする学生が多いが,3年生がより多かった。「車椅子50m」も2,3年生で差があり,3年生は自立とイメージする学生が多く,2年生は要介助とする学生が多かった。「浴室・浴槽への移動」も,2,3年生で差があった。両学年とも要介助とイメージする学生が多いが,3年生がより多かった。「入浴」は,1,2年生で差があり,両学年とも要介助とイメージする学生が多かった。「装具の装着」は,1,3年生で差があり,3年生は自立とイメージする学生が多いが,1年生は要介助とする学生が多かった。【考察】 各学年のイメージにおける共通点は,「食事」,「整容」,「椅子への移動」,「トイレへの移動」を自立のイメージとしている学生が多いこと,「入浴」と「階段昇降」は要介助のイメージとしている学生が多いことが挙げられる。自立のイメージが多い項目は,主に上肢を使用する動作や着座などの動作である。一方,要介助のイメージが多い「入浴」は,他のBI項目「浴室・浴槽への移動」も要介助とイメージしている学生が多いことから,学生は,脳血管障害者の「入浴」に関する動作については要介助とイメージしていることが推測できる。これらのイメージは,1年生も同様のイメージであることから,学習進捗の影響よりも入学前のメディア等による先行学習が影響していると考えられる。学年間でイメージの違いが顕著であった項目は「車椅子50m」であり,2年生は要介助とイメージする学生が多く,3年生は自立とイメージする学生が多かった。この違いは,脳血管障害者の車椅子駆動方法についての知識,3年次の臨床実習などの経験などによる学習進捗が影響していると考えられる。 BIの結果から,学生のイメージは学習進捗の影響が少ない項目と,疾患関連講義や臨床実習などの学習進捗が影響する項目があることが示された。 【理学療法学研究としての意義】 同調査は様々な疾患を題材に応用可能である。学生の障害イメージについてBIを用いて把握することで,学生の疾患に対する理解度や学習進捗よるイメージ変化などを教員が客観的にとらえられ,理学療法教育の一助となると考えられる。