抄録
【はじめに、目的】Charcot-Marie-Tooth病(以下CMT)は,四肢遠位部に優位な筋力低下や筋萎縮,感覚障害を主症状とする緩徐進行性の遺伝性ニューロパチーである.現在,CMTに対する治療法は確立されておらず,発症早期から適切なリハビリテーションを行うことが大切であるといわれている.近年,CMTに対するトレーニング効果の報告が散見されるようになった.レジスタンストレーニングでは,四肢近位部の筋力増強や基本動作の時間短縮が効果として報告されている.しかし,CMTに対するトレーニングの安全性はほとんど確認されていない.先行研究では,筋損傷の指標とされる血清クレアチンキナーゼ(Creatine Kinase;CK)の測定値から,安全性が確認されたとする報告をいくつか認めるのみである.また,CMTのように神経原性疾患に対するトレーニングでは,過用性筋力低下(overwork weakness)に注意が必要である.筋損傷の確認だけでなく,筋疲労,筋疲労回復から安全性を確認する必要がある.そこで本研究の目的は,レジスタンストレーニングでのCMT患者の筋疲労および筋疲労回復特性(回復時間,変化様態)を,表面筋電図を用いて明らかにし,安全なトレーニングプログラム作成の一助とすることである.【方法】対象者は29名のCMT患者[病型:脱髄型(CMT1・CMT4)・11名,軸索型(CMT2)・4名,中間型(CMTX)・2名,不明・12名.平均年齢:脱髄型・35.4±16.1歳,軸索型・51.5±14.0歳,中間型50.5±10.6歳,不明42.8±12.2歳]である.対象筋である上腕二頭筋の筋疲労回復特性(変化様態,回復時間)を客観的,主観的に評価した.客観的評価として,表面筋電計を用いて対象筋の筋電位を運動課題中に導出した.そして,得られた筋電位を周波数解析(パワースペクトラム)して,中央パワー周波数(Median Power Frequency,以下MdPF)を算出し正規化した.また主観的評価では,自覚的疲労感の評価としてBorg Scaleを用い,痛みの評価としてVisual Analogue Scale(以下VAS)もしくはNumerical Rating Scale(NRS)を用いた.運動課題は,対象筋の筋疲労を誘発するための筋疲労誘発課題と,筋疲労および筋疲労回復を測定するための測定課題の2つとした.また,全課題を通し体重の5%の重錘バンドを前腕遠位部に負荷した.筋疲労誘発課題は肘関節の屈曲・伸展運動を連続10回とした.測定課題は筋疲労誘発課題の前および後30,60,90,120,240,480秒後に対象筋の5秒間の等尺性収縮として実施した.筋疲労誘発課題の前後に実施した測定課題中の客観的評価および主観的評価の結果を比較し,筋疲労回復特性を検討した.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対して研究の目的を説明し,同意を得た上で研究を行った.【結果】客観的評価として,筋疲労誘発課題前と比較し,筋疲労誘発課題から60,120,240,480秒後に全対象者のMdPFは高値を示した.病型別では,脱髄型および軸索型で240秒後に,中間型では30秒後,不明では60秒後に高値を示した.また,変化様態として脱髄型と軸索型では,類似した経時的変化を示した.主観的評価として,全対象者のBorg Scaleでは筋疲労誘発課題前と比較し480秒後に高値を示した(p=0.001,Wilcoxonの符号付き順位検定).また,NRSでは29名中4名が1以上を示した.【考察】全対象者について客観的評価では60,120,240,480秒後に筋疲労回復が認められた.しかし,主観的評価では筋疲労は480秒後に増加しており,客観的評価と主観的評価は一致しないことが示唆された.また、病型別では脱髄型と軸索型で240秒後,中間型では30秒後,不明では60秒後に客観的に筋疲労回復が認められた.脱髄型と軸索型については筋疲労回復の変化様態も類似していることが観察されたが,中間型、不明とは異なっていた.以上のことから,客観的評価と主観的評価の乖離が考えられ,また,病型別に筋疲労回復特性が異なる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】CMT患者の筋疲労回復は,客観的評価と主観的評価では異なることが示唆された.また,トレーニングプログラム実施の際には,病型別に考慮する必要があると考えられる.