抄録
【はじめに】変形性膝関節症(以下,膝OA)は多くの高齢者が罹患しやすい疾患のひとつである.運動療法は,膝OAの症状や機能障害,活動性低下を改善させる治療法として,日本理学療法士協会や海外の診療ガイドラインにて推奨されている.しかしながら,2012年現在,運動器リハビリテーションの保険点数が算定できる期間は,治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合を除き,手術又は急性増悪から150日以内に限られている.運動療法を中止した場合,それまでの効果は消失するというエビデンスはあるが,続けた場合の効果やそのエビデンスレベルは十分に明らかにされていない.本研究では,膝OA罹患者に対する治療開始150日を超えた運動療法の有効性とそのエビデンスレベルを明らかにすることを目的とした.【方法】本研究のデザインは,システマティックレビューおよびメタアナリシスとした.論文の適格基準は,膝OA罹患者が対象に含まれている,運動もしくは運動療法が介入として実施されている,コントロール群は無介入あるいは教育的介入のみ実施されている,アウトカムとして心身機能・身体構造,活動,健康関連QOLに関する指標が含まれている,研究デザインはランダム化比較試験(RCT)である,とした.文献検索には,5つの電子データベースを使用した.論文に記載されている統計量から標準化平均差を算出した.異質性の評価指標にはl²値を使用し,l²値が25%以上であれば異質性ありと判断した.RCTのrisk of biasは,PEDroスケールを用いて評価した.エビデンスレベルの判定は,診療ガイドラインの作成にあたって国際的に利用されているGRADEシステムに準じた.介入期間が150日以内のRCT群と150日を超えるRCT群との間に効果の有意差がないか検討するためにサブグループ分析を行い,両群の効果量の比較にはl²値を使用した.【結果】検索の結果,707編の論文が抽出された.そのうち,データベース間で重複して抽出された論文および適格基準に合致しない論文を除外し,最終的に44編のRCTに対してデータの統合およびサブグループ分析を実施した.RCTに含まれていた運動療法は,筋力増強運動単独のものや,筋力増強運動と有酸素運動を併用したものなどが含まれていた.治療を開始して150日を超えた運動介入によっても有意な効果が示され,かつエビデンスレベルが判定できたアウトカムには,疼痛,膝屈曲筋力,階段昇り動作能力,歩行距離があり,健康関連QOLに関する指標ではSF-36の下位領域である全体的健康感,身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,があった.これらアウトカムに対する有効性は,中等度以上のエビデンスレベルであると判定された.サブグループ分析の結果,これらのアウトカムのうち,歩行距離,全体的健康感,身体機能,日常生活機能(身体),体の痛み,に関しては,150日以内の運動介入と同等の効果であることが示された. 【考察】過去のRCTにおいて,90日間の運動介入の直後では有意だった疼痛軽減の効果が,運動介入を中止した3ヶ月後および9ヵ月後には消失していたことが報告されている.活動に関しても同様に,60日にわたって運動を実施した介入群の効果は1年後に消失していたことが報告されている.つまり,運動療法の持ち越し効果は乏しく,運動療法の中止には疼痛や活動に対する効果の消失というリスクがあるといえる.これに関して本研究では,150日を超えた運動介入には疼痛や活動制限に対して有意な効果があるという証拠が示された.運動療法開始から150日を超えても運動を中止せずに継続できれば,効果の消失を回避できると考えられる.一方,健康関連QOLにおいては,SF-36の下位領域のうち,身体機能,日常役割機能(身体),体の痛みに関して,150日を超えた運動療法の有意な効果が示された.さらに,身体的側面のサマリースコアも,1編のRCTによって効果の有意性が示された.これらの結果は,PEDroスケールで6点以上のRCTの2編から得られており,エビデンスレベルは中等度以上と判定された.150日を超えても,運動療法は身体的側面の健康関連QOLの向上に有効であるといえる.我々の知る限り,膝OA罹患者の健康関連QOLに対する運動療法の有効性は国際的な合意が得られていない.本研究の結果は,この点を裏付ける質の高いエビデンスになると考えられる.【理学療法学研究としての意義】膝OA罹患者の機能障害,活動制限,健康関連QOL低下に対する運動療法は,治療開始150日を超えても有効であるという科学的根拠を示した.