抄録
【はじめに】我々理学療法士は入院時より退院後の在宅生活における活動や参加の改善を目標として治療を行っているが,そのためには活動や参加の状況を評価することが必要である。膝関節疾患などの整形外科領域の理学療法では「機能障害」の回復に主眼がおかれているが,この領域でも「活動・参加」を意識する必要があると考えられる。そこで我々は,変形性膝関節症および人工膝関節置換術(TKA)後患者を対象とした「活動・参加」の評価指標として,国際生活機能分類(ICF)の変形性関節症に対するコアセット「活動・参加」の項目を,評価基準には厚生労働省「活動と参加の基準(暫定案)」を用いることを検討した。しかし,この評価法は臨床で一般的に用いられているものではなく研究報告も少ない。また臨床で試用してみて判断基準が難しいとの意見が多い。そこで既存の評価法を補足する評価指針を作成し評価を行った。本研究の目的は,変形性膝関節症やTKA後の「活動・参加」の指標を模索するための基礎研究として,ICFのコアセットに着目し,評価基準に「活動と参加の基準(暫定案)」と新たに作成した「評価指針」を用いて評価した結果を基に検者間信頼性を検討することである。【方法】対象はTKA術前後で当院に入院または通院し理学療法を行っている者10名(平均年齢75.2±9.4歳),男性4名,女性6名,術前2名,TKA後7名(術後2週以上経過している者),人工単顆関節置換術(UKA)後1名であり,原疾患は全員変形性膝関節症であった。検者間信頼性の検討は,同一対象者に対してA病院の理学療法士3名(平均経験年数免許取得後6.3年,範囲3‐12年)により実施した。調査期間は評価者それぞれが別の日に実施することを条件に入院患者は5日以内,外来患者に関しては2週以内とした。なお,対象者には評価期間内に疼痛の急性憎悪やADLに大幅な変化がないか確認した上で行った。評価は「活動と参加の基準(暫定案)」に基づき,活動の実行状況と能力(支援あり,支援なし)について「普遍的自立」(0 点)から「行っていない」(4 点)の5 段階評価にて採点した。新たに作成した「評価指針」には,各項目の評価点に当てはまる具体例を挙げた。統計解析にはSPSS 20.0を用い,合計得点の検者間信頼性の検討には級内相関係数(ICC)(2,1),項目毎では検者間の一致率(%)とICC(2,1)を算出した。一致率は,各評価項目で評価者3名全員が一致する割合を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は茨城県立医療大学倫理委員会にて承認された(承認番号 276番)「人工膝関節置換術後患者の参加制約改善を目的とした理学療法プログラムの開発」の研究の一部として行ったものであり,対象者には研究の目的および方法について説明し,書面により同意を得た。【結果】「評価指針」に基づきICFのコアセットを用いて評価した値の検者間の信頼性の結果は,合計得点のICC (95%信頼区間)は実行0.99 (0.99-1.00),能力(支援なし)0.99 (0.99-1.00),能力(支援あり) 0.99 (0.99-1.00),であった。各項目では,一致率の平均値(範囲)は,実行0.95(0.8‐1.0),能力(支援なし)0.89(0.7‐1.0),能力(支援あり)0.89(0.6‐1.0)であり,各項目のICCは,実行は0.73から1.00,能力(支援なし)は0.68から1.00,能力(支援あり)は0.67から1.00の範囲であった。【考察】ICFコアセットを指標として用いた場合,合計得点を用いて検討する場合と,各項目で検討する場合に実行,能力(支援なし),能力(支援あり)の全ての項目においてそれぞれICC(2,1)で0.6以上「possible(可能)」となり検者間信頼性が高いと判断できた。「能力」の評価における「0(普遍的自立)」は生活の場以外での環境(外出時、旅行時などにおける環境)においても行うことができると定義されており,「1(限定的自立)」は生活の場(自宅,病院,施設など)およびその近辺の,限られた環境でのみ行うことができると定義されている。評価指針作成前は特に能力の「0(普遍的自立)」と「1(限定的自立)」を判別する際,検者による認識の違いが大きい傾向があったため,評価指針により普遍的自立と限定的自立の評価項目の具体例を挙げることにより検者間信頼性が高くなったと考えられる。本研究より,「活動と参加の基準(暫定案)」の評価基準をより明確にすることにより,変形性膝関節症およびTKA後の患者を対象とした活動や参加の評価指標として,ICFの変形性関節症に対するコアセットを用いることができると考えられる。【理学療法学研究としての意義】ICFのOAコアセットは,変形性膝関節症およびTKA後の患者を対象とした活動や参加の評価指標として検者間信頼性を認めたことにより,臨床での活用が期待できる。