理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-05
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ポスター発表
二重課題(Dual task)が脳活動に及ぼす影響
吉田 和未竹森 千紘福田 翔馬西谷 直樹渋谷 佳樹福利 崇中川 慧青影 遵之大鶴 直史弓削 類
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抄録
【はじめに、目的】近年,転倒リスクを評価する上で,二重課題(dual task:以下DT)下での動作遂行能力が注目されている.DT下では,課された 2 つの課題に対して注意を適切に配分しながら,課題を遂行することが必要となる.高齢者の場合,加齢による心身機能の低下により動作遂行能力が低下しているため,一つの動作に対して配分される注意量が増加してしまう.そのため,他の事象が生じてしまった場合,事象に対して新たな注意量が配分され,動作へ配分される注意量が不十分となり,「転倒」を引き起こしてしまうと考えられている.しかしこのように,DT下で必要な対象に必要とされる注意量を適切に配分しながら動作を遂行する事は,高齢者だけではなく若年健常者でも困難であるといわれている.そこで,本研究では,若年健常者を対象にDT下での課題が運動関連野皮質へ及ぼす影響を検討した.【方法】対象は,筋骨格系・視覚に障害のない健常学生男女8 名とした.脳磁場計測には,306ch全頭型脳磁計Neuromag System(ELEKTA Neuromag社、FIN)を使用し,電磁シールドルーム内で計測した.sampling rateは600Hz、highpass filterは20Hz、baselineは-1500 〜‐1400msに設定し、解析区間は-1500 〜700msとした.課題開始前に,メトロノームを使用して0.2Hzの頻度での示指伸展動作を約5 分間練習させた.その後,視覚刺激情報または計算問題を表示するスクリーンを被験者の前に設置し,3 つの条件課題の測定を行った.課題内容は,条件1 は指示伸展運動のみ,条件2 は示指伸展運動と簡単な計算問題,条件3 は示指伸展運動と難しい計算問題で行った.計算問題では,解答を暗算で行わせ,途中で分からなくなった場合は頭の中でリセットして再び暗算を行わせた.トリガーは,示指先端に当てたLEDセンサーから示指が離れた瞬間とし,各条件約80 回加算を行った.全ての条件施行後,計算または動作の自覚難易度の指標として,NRS(Numerical rating scale)を用いて聴取した.脳磁場活動の解析方法は,Neuromag systemを使用した.運動時の,注意配分量低下による運動関連野皮質での波形振幅変化を検討した.条件間の比較には,一元配置分散分析を用い,その後Bonferroniによる多重比較を行った.有意水準は5%以下とする.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科保健学倫理委員会の承認を得て行った.また,対象者には,本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.【結果】各条件において示指伸展に対し,運動関連脳磁界波形(Movement-related cerebral fields:以下MRCFs)が認められた.運動開始直前に認められるMF(Motor fields)の活動頂点で等価電流双極子による推定を行った結果,活動源は対側第一次運動野に推定された.また,運動開始前500 ミリ秒から運動準備磁界(Readiness Fields:以下RF)が記録された.被験者のうち,4 名はRFが記録されなかったため,解析対象から除外した.結果,MF,RFともに条件1 で最も大きくなり,一元配置分散分析と多重比較をした結果,他の条件との間に有意差が得られた(P<0.05).条件2 と条件3 の波形では有意差は得られなかった.【考察】RFは,運動に対して準備するために生じる波形であり,運動の複雑性・離散性・精度が高くなることで振幅が大きくなるといわれている.本研究では,条件1 と条件2・3 の間でRFの振幅に差がみられた.計算課題下での運動は,計算に対して注意を払う必要があり,運動に対する注意量は減少する.減少した注意量での運動は,条件1 下の運動よりも複雑となった結果,RFの振幅の減少を招いたという可能性が示唆される.また,条件2 と3 の間では,波形に大きな差は生じなかった.【理学療法学研究としての意義】二重課題下での運動は,自覚難易度と関係なく,運動関連皮質に影響を及ぼす可能性が示唆された.本研究では,運動に対する注意量の変化が運動関連野皮質にどのように影響するか調べるための基礎的な研究であり,今後,脳の変化だけでなく動作の遂行レベルとの関連性をみていく必要があると思われる.これによって得られた関連性より,高齢者の転倒リスクを改善する理学療法手段や指導へと展開させていくことが重要と考えられる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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