理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-06
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ポスター発表
股関節周囲靭帯の伸張肢位を検討する 拘縮に対する効果的な治療手順を求めて
日高 惠喜青木 光広泉水 朝貴高田 雄一宮本 浩樹鈴木 大輔藤宮 峯子
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抄録
【目的】これまで股関節可動域を拡大する様々な運動療法が用いられてきた。腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、および坐骨大腿靭帯は股関節の過剰な運動を抑制し、股関節に安定性をあたえる重要な支持組織である。しかし、これらの靭帯の拘縮は股関節の可動域制限をもたらすと考えられ、靭帯を効果的に伸張する方法が求められる。本研究の目的は腸骨・恥骨・坐骨大腿靭帯の伸び率を計測し、それぞれの靭帯の伸張肢位を明らかにすることである。【方法】骨盤と大腿骨の変形、骨折、周囲軟部組織に拘縮のない新鮮凍結遺体標本8 体8 股(平均年齢86 歳)を用いた。股関節周囲の軟部組織を切除し、靭帯を露出して標本を専用ジグに固定した。靭帯が僅かでも伸張する運動方向を特定する予備実験の結果から、それぞれの靭帯の伸び率を測定する肢位を決定した。それに基づき、腸骨大腿靭帯上部線維束の測定肢位は最大外旋を中心とした5 肢位、下部線維束の測定肢位は最大伸展を中心とした6 肢位、恥骨大腿靭帯の測定肢位は最大外転を中心とした6 肢位、坐骨大腿靭帯の測定肢位は最大内旋を中心とした7 肢位と設定した。変位計測装置を用いて靭帯の基準長(L0)を設定し、他動的伸張手技の際に用いられる一定の股関節運動トルクを加えた時のL0 からの靭帯の伸び率を計測した。同時に電磁気式3 次元動作解析装置を用いて股関節角度を計測した。靭帯の伸び率についてL0 と各肢位を比較する目的で、Dunnettの多重比較検定を用いた。統計解析の有意水準を5%とした。【倫理的配慮】本研究における未固定遺体標本の採取と実験研究使用に関して、本学倫理委員会の承認を得た。生前の本人と遺族は本学における未固定標本の研究使用を承諾した。本研究は遺体解剖の有資格者の指導下で行なった。【結果】最大外旋における腸骨大腿靭帯の上部線維束の伸び率は3.48 ± 2.57%であり、統計学的に有意に大きかった(P<0.05)。最大伸展、外旋10°、20°+最大伸展における腸骨大腿靭帯の下部線維束の伸び率はそれぞれ1.86 ± 1.22%、1.46 ± 0.85%、1.25 ± 0.63%であり、統計学的に有意に大きかった(P<0.05)。最大外転、外旋10°、20°、30°+最大外転における恥骨大腿靭帯の伸び率はそれぞれ3.18 ± 2.74%、3.28 ± 2.43%、3.11 ± 2.69%、2.99 ± 2.48%であり、統計学的に有意に大きかった(P<0.05)。外転10°、20°+最大内旋における坐骨大腿靭帯の伸び率はそれぞれ7.11 ± 4.47%、7.83 ± 6.99%であり、統計学的に有意に大きかった(P<0.05)。その他の肢位では統計学的に有意な伸び率は得られなかった。また、平均股関節可動域は伸展11.31 ± 5.23°、外転31.39 ± 5.92°、内転11.65 ± 7.19°、外旋33.44 ± 6.43°、内旋27.5 ± 6.97°であった。【考察】腸骨大腿靭帯上部線維束は大腿骨頸部と平行に下外方へ斜走するため、解剖学的走行から股関節外旋で伸張したと考えられる。腸骨大腿靭帯下部線維束は大腿骨長軸と平行に下方向へ走行するため、伸展で伸張したと考えられる。恥骨大腿靭帯は大腿骨頸部の前下面を外下方に斜走しているため、外転で伸張したと考えられる。坐骨大腿靭帯は股関節頸部の後面を外方へ走行しているため、内旋で伸張したと考えられる。それぞれの靭帯の有意な増加を示した伸張方向は、解剖学的走行と一致した。伸び率の結果から腸骨大腿靭帯下部線維束の伸び率は低く、伸びにくいことが明らかになった。これは浅い前方寛骨臼により不安定なため、厚く伸びにくい靭帯が連結したと考えられる。また坐骨大腿靭帯の伸び率は高く、伸びやすいことが明らかになった。これは張り出した後方寛骨臼により安定するため、薄く伸びやすい靭帯が連結したと考えられる。高齢者標本を用いたため、本研究で得られた結果は若年者の可動域や伸び率と異なる可能性があり、研究限界と考えられる。【理学療法学研究としての意義】中枢神経系障害による股関節拘縮症例では股関節屈曲、外転、外旋拘縮または股関節屈曲、内転拘縮が起こると報告されている。これらの拘縮肢位が長期間に及ぶことにより股関節周囲靭帯の拘縮が起こる。股関節屈曲、内転拘縮は立位、歩行などの日常生活活動を制限するだけでなく、外陰部の清潔状態を維持することが困難になる。従来よりこれらの股関節拘縮を改善するためのストレッチングとして関節全体に大きな他動的モーメメントを加えて複数の筋、靭帯、そして関節包を同時に伸張させる方法が用いられてきた。近年、肩関節、肘関節、および足関節の関節周囲靭帯に対して適度な伸張ストレスを与えることでそのコラーゲン線維のリモデリングが期待されることから、靭帯の各部分に対する選択的ストレッチングが注目されている。本研究結果で得られた靭帯の伸張肢位に基づいて実施される股関節周囲靭帯の選択的ストレッチングは股関節拘縮に対する効果的な治療手順を導き出す可能性があり、治療に寄与すると考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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