理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-19
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ポスター発表
人工股関節置換術後6ヶ月における歩行能力は術前の中殿筋および腹直筋の筋萎縮と関連する
南角 学秋山 治彦田仲 陽子西川 徹柿木 良介
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抄録
【目的】臨床場面において,人工股関節置換術(以下,THA)術後で術前の痛みがなくなった患者さんが,次に期待することは「杖なしで歩くこと」や「きれいに歩くこと」である.このためTHA術後の理学療法では独歩(杖などの歩行補助具を使用しない歩行)の獲得や歩容の改善を目標に運動療法に取り組むことが多い.しかし,術前の股関節や体幹を中心とした機能障害が顕著な症例では,術後に独歩の獲得が可能であっても歩容上での問題点が残存することがある.THA術後の理学療法において,術前の機能障害から術後の歩容を中心とした歩行の回復状況を予測した上で適切なゴール設定を行うことが必要となるが,術前の機能障害と術後の歩容の関連性を検討した報告は少ない.本研究の目的は,THA術後6ヶ月の歩容に関連する術前の機能障害や運動機能を明らかとすることである.【方法】対象は片側変形性股関節症により初回THAを施行され,術後6ヶ月の日常生活で杖を使用していない女性74名(年齢:60.6±10.3歳)とした.全例前外側アプローチによりTHAを施行され,術後のリハビリテーションは同様に行い,術後4週以内で退院となった.当院整形外科医の処方により撮影された股関節正面のX線画像とCTを用いて,術前の骨盤前傾角および中殿筋と腹直筋の筋断面積を測定した.骨盤前傾角は,股関節正面のX線画像の骨盤腔の縦径からKitajimaらが報告した回帰式を用いて算出した.また,術側の中殿筋と腹直筋の筋断面積は,Raschらの方法に従い,仙腸関節最下端での水平断における画像を採用し,画像解析ソフト(TeraRecon社製)を用いて測定した.さらに,術前の運動機能として,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,Timed up and go test(以下,TUG)を計測した.股関節外転筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)にて等尺性筋力を測定し,筋力値はトルク体重比(Nm/kg)で算出した.さらに,THA術後6ヶ月での歩行観察において,歩行中の患側立脚期に体幹の傾きを認めなかった症例(以下,A群)と体幹の傾きを認めた症例(以下,B群)の2群に分けた.統計には,対応のないt検定,判別分析,ロジスティック重回帰分析を用い,統計学的有意基準は5%未満とした.【説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の趣旨および目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果と考察】年齢はA群56.7±9.3歳(37名)とB群64.5±9.6歳(37名)であり,A群がB群と比較して有意に低い値を示したが,BMIについては両群間で有意差を認めなかった.術前の筋断面積は,中殿筋はA群2317.6±372.5mm2,B群1680.0±269.5mm2,腹直筋はA群392.4 ±63.9mm2,B群293.1±81.5 mm2であり,A群の中殿筋と腹直筋の筋断面積はB群と比較して有意に高い値を示した.術前の骨盤前傾角,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,TUGは両群間で有意差を認めなかった.また,2群間で有意差を認めた測定項目について,判別分析を用いて2群の判別値を求めた結果,年齢62.7歳,中殿筋1998.8mm2,腹直筋342.7mm2であり,すべての項目で2群のマハラノビス距離は有意に大きく,error rateは14.9-32.4%であった.さらに,年齢と中殿筋および腹直筋の筋断面積を説明変数,THA術後6ヶ月での歩容を目的変数としたロジスティック重回帰分析を行い,オッズ比を求めた結果,年齢2.0(95%CI:1.03-3.89),中殿筋の筋断面積4.7(95%CI:2.09-10.66),腹直筋の筋断面積3.1(95%CI:1.41-6.93)であり,年齢,中殿筋と腹直筋の筋断面積のオッズ比は有意であった.以上から,THA術後6ヶ月における歩容の回復状況を予測するには,術前の下肢筋力やTUGなどの運動機能の評価では不十分であり,中殿筋や腹直筋の筋萎縮を評価する必要があることが明らかとなった.今後の課題として,術前の股関節周囲や体幹筋の筋萎縮が顕著な症例で対して,THA術後の歩容の改善に有効なトレーニングを検討していく必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】THA術後の歩行の回復状況を予測しながら,術後の理学療法を展開していくことが重要である.本研究の結果から,THA術後の根拠に基づいた目標設定のための一助となることが示唆され,理学療法学研究として意義があると考えられた.
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© 2013 日本理学療法士協会
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