理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-19
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ポスター発表
ディシジョンツリー分析に基づいた在院日数予測モデルの逸脱要因
人工股関節全置換術患者5症例による症例集積研究
中村 瑠美山口 良太丸山 孝樹藤代 高明林 申也神崎 至幸橋本 慎吾酒井 良忠
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抄録
【目的】大学病院における人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty: THA)患者の術後在院日数は様々な要因で遷延する。そこで我々は先行研究において、術後在院日数予測の術前関連要因について検討した結果、手術回数、年齢、術前歩行様式、非術側の股関節機能判定基準(JOA score)、併存疾患数の5項目が抽出された。さらに、これら5項目を説明変数としたディシジョンツリー分析で出力された在院日数予測モデル(以下、予測モデル)に基づいて4パターンのクリニカルパス(以下、パス)を作成した。これらの4パターンのパスは術前関連要因に基づいて作成されており、術後事象によって逸脱する可能性がある。そこで本研究の目的は、全対象患者のうち予測モデルから逸脱した5名について逸脱因子を検討することである。【方法】対象は当院において2009年4月から2012年9月までに再置換術を含むTHAを施行された患者女性122名、男32名の計154名(平均年齢67歳)、173股のうち、予測モデルに基づいて分類された4パターンのパスに逸脱する症例5名を対象とした。調査項目は前述の先行研究において採取した術前関連5項目および術後在院日数に加えて、術後関連要因として初回離床日、杖歩行獲得日、手術時間、術中出血量、荷重制限の有無、術後ヘモグロビン(以下Hb)値、術後合併症の有無とした。さらに診療録記録から逸脱する要因と考えられる記載をフリーワードで抽出した。【説明と同意】本研究は後方視的研究であり、全ての患者からの同意が得られないため神戸大学医学倫理委員会の指針および臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)に則り、診療録から得られた個人情報を目的達成に必要な範囲を越えて取り扱わず、匿名化したデータベースにして解析を行った。【結果】以下に各症例についての要約を記載する。症例1(70歳女性)は”初回手術”、”70歳”、”独歩”、” JOA score90点”、”併存疾患数5”であり、モデルによる分類では平均在院日数34.3日の5週パスグループに分類されたが実日数は51日であった。在院日数を遷延させる要因としては、短縮骨切り術併用による3週間の免荷期間が設定されていた。症例2(81歳女性)は”初回手術”、”81歳”、”T字歩行”、” JOA score72点”、”併存疾患数4”であり、5週パスグループに分類されたが実日数は50日であった。術後24日で深部静脈血栓症(DVT)が判明して7日間のリハビリ中断に加えて6日間の年末年始休業があった。症例3(73歳女性)は”初回手術”、”73歳”、 ”T字歩行”、” JOA score75点”、”併存疾患数15”であり、5週パスグループに分類されたが実日数は44日であった。術後11日でDVTが判明したがリハビリテーションの中止はなし。術直後から創部治癒が遷延していた。また、右肺下葉に腫瘍病変の疑いを指摘され精査目的の日数延長があった。症例4(64歳女性)は”初回手術”、”64歳”、 ”T字歩行”、” JOA score71点”、”併存疾患数2”であり、4週パスグループ(平均在院日数29.6日)に分類されたが実日数は44日であった。1.5cm以上の脚長差を生じており補高装具の完成まで病棟での歩行獲得が遷延した。また、両側とも下肢筋力低下が著しく両側ロフストランドクラッチ歩行での退院となった。症例5(85歳女性)は”初回手術”、”85歳”、 ”T字歩行”、” JOA score71点”、”併存疾患数3”であり、4週パスグループに分類されたが実日数は37日であった。85歳と高齢であり独居であることが退院に対する不安を助長していた。また、視力障害が著明でありバランス能力獲得に時間を要した。【考察】5症例の検討において抽出された術後関連項目としては、免荷期間の設定、Hb低値、術後合併症(DVT、創遷延治癒)、他部位疾患の合併、補高装具、長期休業が挙げられた。また、術前より採取可能な項目としては下肢筋力低下、独居、視力障害などが挙げられた。術後関連要因のうち免荷期間の設定およびHb低値に関しては手術当日に採取しうる項目であることから、これらの項目を含む予測モデルを作成することにより逸脱を避けられると考えられた。術後合併症の発生は大きくパスを逸脱させる可能性が示唆された。術前に採取しうる項目については、先行研究において多変量解析による有意な項目としては抽出されなかった。今後は、数値化された下肢筋力などを術前項目とした精度の高い予測モデルの作成と、術後関連項目を考慮したパスの運用が望ましいと考えられた。【理学療法学研究としての意義】予測モデルはあくまで予測モデルであり、実際には有意な説明変数になり得ない少数の逸脱要因を意識したアプローチこそが求められる。一方で逸脱要因と考えられるためには、精度の高い予測モデルが存在する必要がある。本研究の結果は、より精度の高い予測モデルの構築とモデル逸脱要因の検索の両者に寄与するものであると考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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