理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-35
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ポスター発表
最大速度の歩行における下腿三頭筋の周波数パワーの差異 wavelet変換を用いた動的筋電図周波数解析
妹尾 祐太戸田 晴貴井上 優津田 陽一郎加藤 浩
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キーワード: wavelet変換, 歩行, 下腿三頭筋
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抄録

【はじめに,目的】下腿三頭筋 (Triceps Surae,以下TS) は,歩行能力と強い相関があり (Posner, et al., 1995),歩行の推進力に寄与する重要な筋である。TSは腓腹筋内側頭 (Medial head of Gastrocnemius,以下MG),外側頭 (Lateral head of Gastrocnemius,以下LG),ヒラメ筋 (Soleus,以下SOL) からなる。我々の先行研究 (2012) では,自然速度での歩行(以下,自然歩行)において,TS3 筋に対し,周波数パワーと時間因子を同時に解析できるwavelet変換を用いた表面筋電図周波数解析により,運動単位の活動状態について検討した。その結果,Terminal swing (以下TSw) で,SOLのTypeI線維が優位に活動し,荷重直前から足関節を安定させる可能性が示唆された。最大速度での歩行 (以下,最速歩行) は,歩幅や歩行率の変動が少なく,再現性が高いことや (Bohannon RW., 1997),歩行能力を最大限引き出せるため,歩行の評価に適していることが報告されており (村田ら,2004),臨床でも一般的に利用されている。歩行速度が増加すると,各関節のモーメントは増加し,関与する筋活動も変化する (金ら,2001)。しかし,最速歩行でTSが,どのように活動するかは明らかではない。そこで本研究は,wavelet変換を用いた筋電図周波数解析により,最速歩行におけるTS3 筋の周波数パワーの差異を求め,運動単位動員の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】被検者は健常若年男性16 名 (平均年齢25.4 ± 2.0 歳) であった。課題動作は,10mの最速歩行とした。被検筋は左下肢のMG,LG,SOLとし,筋活動の測定には,表面筋電図EMGマスター (小沢医科器械社製) を用いた。解析する周波数帯域は,12.5 〜200Hzとし,低 (12.5 〜60Hz),中 (61 〜120Hz),高周波帯域 (121 〜200Hz) に分類した。1 歩行周期時間を100%とし,階級幅10%ごとの累積パワーを,最大等尺性収縮時の累積パワーで正規化 (以下,%パワー) した。任意の5 歩行周期を抽出し,加算平均した値を代表値とした。統計学的解析は,Shapiro-Wilk検定により正規分布しないことを確認し,各周波数帯域の3 筋間の%パワーの差を階級ごとにSteel-Dwass法にて多重比較を行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究であり,被検者に研究の目的と方法を説明し,同意を得た上で実施した。【結果】%パワーは,歩行周期0 〜10%の低・中周波帯域で,SOLがLGより有意に大きかった。11 〜20%の低・中周波帯域で,MGとSOLがLGより大きかった。21 〜30%の中周波帯域で,MGとSOLがLGより大きかった。41 〜50%の全周波数帯域で,SOLがMGより大きかった。91 〜100%の低周波帯域で,SOLがLGより大きかった。【考察】本研究は,最速歩行におけるTS3 筋の周波数パワーの差異を求め,運動単位動員の特徴を明らかにすることを目的として実施した。低,中,高周波帯成分は各々TypeI,IIa,IIb線維の活動を反映する (永田ら,1982)。本研究の結果から,Initial contact〜Loading responseでは,SOLのTypeI・IIa線維が,Mid stanceでは,MG・SOLのTypeI・IIa線維が,TSwでは,SOLのTypeI線維が優位に活動することが示された。これらは我々の先行研究 (2012) で示した自然歩行における特徴と一致した。TSwでのSOLの活動により,荷重直前から足関節を安定させる可能性が示唆された。運動開始前に,主運動で生じる重心動揺を最小限に抑えるための姿勢調節について諸家により報告されており,先行随伴性姿勢調節 (Anticipatory postural adjustments,以下APA) と呼ばれる。運動速度が速い場合,APAによる筋活動は増加する (Crenna, et al., 1991)。我々の先行研究 (2012) と比較すると,自然歩行より最速歩行での%パワーが高値であり,APAの関与で,より多くSOLの運動単位が動員されることが示唆された。最速歩行のTerminal stance (以下TSt) 後半である歩行周期41 〜50%では,自然歩行で検討した我々の先行研究 (2012)では認めなかったSOLのTypeI・IIa・IIb線維の優位な活動が示された。TStでは,足関節の底屈モーメントが最大となり,TSは遠心性から求心性に収縮し,身体に働く慣性を制御する (Simon SR, et al., 1978)。歩行速度の増加に伴い,足関節モーメントは増加傾向となる (金ら,2001)。速く歩行する場合,TSt後半でのSOLの強い筋活動が重要である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,歩行能力を最大限引き出せる最速歩行で,TStにおけるSOLの活動の重要性を示したことである。歩行速度を増加させるためには,SOLの活動に着目する必要性が示唆された。今後の課題として,速度変化の影響を受ける歩幅や歩行率,歩行中の関節角度とTSの運動単位動員との関連について,検討が必要である。

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© 2013 日本理学療法士協会
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