理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-36
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ポスター発表
関節軟骨におけるHSP70 の発現局在の解明と荷重量の変化が及ぼす影響
広瀬 太希飯島 弘貴伊藤 明良長井 桃子山口 将希太治野 純一張 項凱井上 大輔青山 朋樹秋山  治彦黒木 裕士
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抄録

【はじめに、目的】Heat-Shock Proteins 70(以下HSP70)は,細胞質タンパクのフォールディングを行い,ときには異常タンパク質を分解する作用を担うことで,細胞内のホメオスタシス維持に関与するタンパク質のひとつであることが知られている.関節軟骨とHSP70 に関する報告では,変形性関節症所見を示す表層の軟骨細胞でその発現促進が確認されており,軟骨細胞においてはその機械的刺激応答を示す一因子として,同タンパク質が関与することが示唆されている.しかし,関節軟骨にかかるメカニカルストレスとHSP70 の発現局在の関係性については報告が少なく未解明な部分が多い.関節軟骨は,各層により細胞機能が異なる上に,その部位によっても受ける力学的特性が変化する.そのため,細胞の保護作用をもつHSP70 の発現動態を明らかにすることで,関節軟骨が受けるメカニカルストレスの変位と軟骨細胞の機能的役割を関連づけることができると考えた.本研究の目的は,ラットの正常関節軟骨におけるHSP70 の発現局在を解明することである.また,メカニカルストレスが軟骨細胞に及ぼす影響を考察するために,荷重量の変化によるHSP70 発現の動態にどのような関係がみられるか比較検討する.【方法】対象として,6 週齢のWistar系雄性ラットを使用した.実験動物は,自由飼育を実施するControl群(CO群),尾部懸垂Tail Suspension群(TS群),尾部懸垂中に週5 日1 時間の自由飼育を行う体重負荷Weight Bearing群(WB群)の3 群にそれぞれ分けた.介入期間は2 週間とした.飼育終了後に安楽死させ,後肢を採取して4%パラホルムアルデヒドにて組織固定を行い,10%EDTA溶液による組織脱灰後,パラフィン包埋したものを6 μmに薄切した.観察部位は,大腿骨・脛骨の矢状断面とした.免疫組織化学的分析は,抗HSP70 を一次抗体とし,ABC法にて行った.各サンプルの比較は,先行研究での報告に従い,関節軟骨の関節面から表層・中間層・深層の3 層に分け,大腿骨と脛骨の荷重部位・非荷重部位のそれぞれを,光学顕微鏡を用いて観察した.CO群でHSP70 陽性細胞の局在を明らかにしたのち,TS群とWB群でその発現局在の変化を比較した.【倫理的配慮、説明と同意】所属大学の動物実験委員会の承認を得て実施した.【結果】CO群の荷重部位では,脛骨のほぼ全層でHSP70 陽性細胞が観察された.各層で比較すると,深層にいくにつれその染色性は低下していた.大腿骨は中間層で陰性細胞がみられた.非荷重部位では,大腿骨は深層でのみ陽性細胞が観察された.脛骨で著明な差異は認められなかった.TS群の荷重部位では,CO群と比べて大腿骨は表層で,脛骨は中間層で陰性細胞が観察された.非荷重部位では,両骨ともに著明な変化はみられなかった.WB群は,大腿骨の荷重部位で,表層にCO群と同等の陽性細胞が観察された.脛骨はTS群と比べて著明な差異は認められなかった.【考察】本研究結果より,ラットの正常軟骨細胞におけるHSP70 の発現は,脛骨のほうがより多いことが明らかになった.この要因として,関節軟骨に与えるメカニカルストレスが両骨間で異なることが考えられる.これは,軟骨基質のコラーゲン配向性や両骨間の軟骨厚の違いとも関係性があると考える.また,TS群とWB群の結果からは,適度な荷重がHSP70 の発現に必要な刺激であることが示唆される.TS群の荷重部位の大腿骨表層と脛骨中間層で陰性細胞が観察された.このことから,非荷重によって軟骨細胞にかかるメカニカルストレスが減少した結果,HSP70 の発現が抑制されたと考えられ,同部位が正常荷重時にメカニカルストレスを最も受けている箇所であった可能性があると推測される.これは,運動療法による適度なメカニカルストレスが,軟骨基質の変性を防ぐだけではなく,軟骨細胞の保護作用を増強するという点でも必要となることが示唆される.【理学療法学研究としての意義】荷重量の変化が軟骨細胞におけるHSP70 の発現局在にどのような影響を及ぼすか示している研究は少ないが,軟骨細胞が受けるメカニカルストレスと同タンパク質の発現量には関係があると示唆されるため,今後は,非荷重期間の延長や過荷重による発現動態の変化をさらに比較することで,荷重訓練における適正負荷を検討し,運動療法の有効性を裏付けることができると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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