抄録
【はじめに、目的】 当施設では、平成24年5月より個別機能訓練加算IIを導入し、主に理学療法士が個別機能訓練計画書を作成している。個別機能訓練加算IIの加算要件として、機能訓練指導員に従事する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員、柔道整復師又はあん摩マッサージ指圧師が直接機能訓練の提供を行う必要があり、当施設では理学療法士もしくは看護師がプログラムを実施している。実施状況として、午前中は通所介護の入浴サービスと時間が重なるため、最大7名までの直接的個別介入しか行えず(空気式加圧マッサージ器や室内用自転車型運動器具などの実施も含む)、午後は13:00から16:00までの3時間で最大26名を5人以下の小集団対応とし、日常生活における生活機能の維持・向上に必要な運動プログラムを実施している。現在、個別機能訓練加算IIを対象としている利用者様54名のうち、47名が下肢筋力もしくは移動能力の維持や改善を希望している。これら47名には、移動能力に関する目標を設定し、下肢を中心とした運動や実践的なプログラムを実施している。今回、多くの利用者様が希望している下肢筋力や移動能力に焦点を当て、個別機能訓練加算II導入の効果を検討した。【方法】 当施設において、個別機能訓練加算IIに基づく機能訓練を実施している利用者様54名のうち、平成24年8月の時点で実施している24名の中から、下肢筋力もしくは移動能力の維持や改善を希望している21名(平均年齢85±9.13歳、男:女=6:15、介護度:要支援1~要介護5=2:3:4:5:6:0:1、主疾患=整形13:中枢5:内科2:精神1:神経難病1:内部障害4)を対象とした。検討方法は、1)対象の利用者様に、平成24年8月と11月に筋力センサーを用いて膝関節の伸展筋力を計測し、3ヶ月間の実施で膝関節伸展筋力の平均値に有意差があるか比較した。統計処理はt検定を用いて、有意水準を5%未満とした。2)平成24年8月と11月の膝関節伸展筋力の平均値を、Functional Independence Measure(以下、FIM)において移動項目6点以上と6点未満の利用者様で比較した。統計処理はt検定を用いて、有意水準を5%未満とした。3)平成24年8月と11月でのFIMの移動項目の点数を比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 本人もしくは家族に対し、実施内容を書面にて説明し、署名により同意を得た。また、個人情報の取り扱い、公表についても同様に同意を得た。【結果】 1)個別機能訓練加算IIを導入し、3ヶ月間の実施での比較:膝関節伸展筋力の平均値は平成24年8月で9.82±4.50kgf、11月では12.17±4.16kgfであり、平均3.35±2.72kgfの変化が認められ、膝関節伸展筋力の値の上昇が有意に(P<0.05)見られた。2)FIMの移動項目の点数が6点以上と6点未満での比較:平成24年8月と11月での平均値の差異は、FIM移動項目6点以上で3.71±2.54kgf、6点未満で2.52±3.17kgfであり、有意差は(P>0.05)で認められなかった。3)平成24年8月と11月でのFIMの移動項目点数に差異は生じなかった。【考察】 個別機能訓練加算IIの導入により、移動能力に関係なく膝関節伸展筋力の向上が認められた。これは、5人以下の小集団による運動プログラムの効果といえるが、FIMの移動項目の点数に差異が生じなかったのは、理学療法士が実践的なプログラムを直接的に行う回数や時間が不十分であったと考えられる。この原因として、算定要件として1回あたりのプログラム実施時間が「訓練を行うための標準的な時間」とされ、所要時間に明確な決まりがないことや、類似の目標を持ち同様のプログラム内容が設定されていれば5人程度以下の小集団での実施は差し支えないなど、実施方法に集団の要素があることで、当施設では3時間で最大26名を5人以下の小集団で実施するに至り、個別に実践的なプログラムを行う時間を確保することが難しい状況にあることが挙げられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より、当施設における個別機能訓加算Ⅱの導入が利用者様の身体機能の維持・向上に有用であると言えた。今回は、個別機能訓練加算IIの効果を下肢筋力や移動能力に焦点を当てて、3ヶ月間の実施で比較・検討したが、効果は身体機能面に留まり、生活能力への影響は得られなかった。目標の見直しやプログラム内容の変更を行い、利用者様の生活の維持・向上を図れるように、今後も当研究を続ける意義があると考えた。