理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-01
会議情報

一般口述発表
繰り返し要素が含まれるトラッキング課題における潜在学習の可能性
中村 壽志谷 浩明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】運動技能の習得には,変化する周囲の環境にあわせて自らの運動を調整する必要がある.この運動調整に必要な環境内の情報についての知識は,言語化不可能で,その習得は潜在的な学習によると考えられている.こうした考え方に基づき,潜在的な学習の有無を確かめる方法として,系列反応時間課題(serial reaction time task:SRTT)がある.実際,この方法を用いて中枢疾患患者を対象にした潜在学習能力の有無が検討されている.これに対し,その調整がより連続的であるトラッキングも,応用例はSRTTに比べて少ないものの課題として用いられることがある.今回,先行研究と異なる設定のパーソナルコンピュータ(以下,PC)でのトラッキング課題を用いた再試を行い,潜在的な学習の現象が見られるかどうかを確かめたので報告する.【方法】本実験の概要説明により同意が得られた健常成人11 名(平均年齢27.5 歳)を被験者とした.課題は,PCを利用したトラッキング課題で,被験者にはCRT上を動くカーソル(目標カーソル)に,マウス操作で動くカーソル(制御カーソル)を重ねるよう教示した.2 つのカーソルの制御と測定には,この実験用に組まれたアプリケーション・ソフト(共和電業特注:CHASE)を使用した.1 試行は,3 つのセグメントからなる.具体的には,毎試行目標カーソルが異なる動きをする2 つのセグメント(Random)に,毎試行同じ動きをするセグメント(Repeat)が挟まれる形とした.さらに,セグメント毎での難易度のばらつきを抑えるために一定の条件を課した.1 日あたりの練習は12 試行(10 分間),連続5 日間で60 試行の練習を行った.さらに,5 日目の練習が終わった後に,Repeatが毎回同じ動きであったことに気がついたかどうかを聴取した.収集されたデータから,目標カーソルと制御カーソルの差分から二乗平均平方根誤差(Root Mean Squared Error:RMSE)を求め,パフォーマンスを評価した.データ解析にはSPSS15.0J for Windowsを用い,練習日とセグメントを要因とする反復測定による二元配置分散分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,国際医療福祉大学倫理審査委員会の承諾を受けた.(承諾番号:11-46)【結果】すべてのセグメントで,RMSEは練習が進むにつれて減少しており,Repeatは全練習日を通じて他のセグメントより低い値を示した.検定の結果,練習日の主効果は有意であった(F=18.57, p<0.01).また,セグメントの主効果は有意となり(F=101.28, p<0.01),セグメント間で差のあることが認められた.練習後,Repeatのパターンが一定であったことに気付いた被験者はいなかった.【考察】すべてのセグメントにおいて,練習によるパフォーマンスの向上が見られた.これは,マウス操作と画面上のカーソルの動きの対応を含むトラッキング課題そのものの習熟が示されていると考えられる.ただ,セグメントの中でもRepeatが他より高いパフォーマンスを見せたことは,RepeatにはRandomと異なる要素があることを示している.通常,トラッキング課題で被験者が行うのは視覚フィードバックによる誤差修正だが,これには,純粋なフィードバック制御だけではなく,そこには一部,予測が加わる.Repeatが高いパフォーマンスを示したのは,繰り返されるRepeatのパターンを覚えることでこの予測の精度が上がったのではないかと考えられる.さらに,全被験者がRepeatのパターンが一定であることに気がつかなかったという結果は,Repeatのパターンの学習が,被験者自身の意識にはのぼっていないことを意味している.これは運動調整に必要な環境内の知識が,言語化不可能で意識されない潜在的な形をとるとする考え方を支持するものと考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究では,PCを使ったトラッキング課題で,課題のプログラムに一定の条件を設けることで潜在学習様の現象を確認することができた.今後,課題の難易度設定などを検討することで,潜在学習能力を評価する方法として発展させることができると考えている.

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top