理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-01
会議情報

一般口述発表
立位バランス学習における自己運動観察によるフィードバック効果の検証
冷水 誠津田 宏次朗涌本 瞳前岡 浩松尾 篤森岡 周
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】効果的な運動学習をもたらすフィードバックの1 つに視覚フィードバックがある。この視覚フィードバックに関して,自己の運動を観察させるビデオフィードバック(自己観察)による学習効果が報告されている。一方,他者の運動を観察することでも運動学習効果が報告されている。これはフィードバックではなく,運動観察による観察学習効果とされている。これら自己観察および他者観察による運動学習効果については,いずれも観察なし条件と比較しており,自己観察あるいは他者観察のどちらが効果的であるかは不明である。そこで本研究の目的は,バランス学習において自己観察と他者観察による学習効果の違いに関して,脳活動を含めて明らかにすることとした。【方法】対象は健常大学生39 名(男性15 名,女性24 名,平均年齢21.3 ± 0.83 歳)とし,13 名ずつ無作為にコントロール群,他者観察群,自己観察群の3 群に割り当てた。学習課題は左右方向のみに不安定とした不安定板(DYJOCボード;以下ボード 酒井医療)上での30 秒間立位バランス保持とした。各群ともに試行肢位は両肩幅での開脚立位とし,できるだけボードの両端が床と接しないよう長く保持するよう求めた。試行手順は,課題試行前および試行後に各30 秒の安静を設け,これを1 セットとした。試行前安静は3 群ともに椅子座位とし,試行後安静はコントロール群では試行前安静と同様の椅子座位とした。他者観察群では事前に要した他者の課題試行動画をiPad(Apple社)にて観察した。これに対し,自己観察群では自身の課題試行をiPadにて撮影しておき,この試行後安静時に自身の試行動画をiPadにて観察した。学習手続きは,まず1 セット目をpre testとして実施し,その後6 セットを反復し6 セット目をpost testとした。さらに,学習保持効果をみるために24 時間後にretention testとして1 セット実施した。評価項目は課題試行中にボードの両端が床と接した回数(接地回数)およびその両端が連続して床と接していない時間(最長保持時間)とした。これらはボード両端に圧センサー(NORAXON社)を設置し,床に接地することによる圧信号をPCに取り込み測定した。脳活動の測定には機能的近赤外光分光法装置(functional near-infrared spectroscopy: fNIRS,島津製作所FOIRE-3000)を用い,光ファイバを感覚運動野から前頭前野領域(全測定51channel)を覆うよう装着し,脳血流動態を測定した。活性化の指標は酸素化ヘモグロビン濃度長とし,Statistical Parametric Mapping(SPM)を用い課題試行中の脳活動を解析および分析した。統計学的検定は接地回数および最長保持時間について,学習時期(pre test/post test/retention test)および群(コントロール群/他者観察群/自己観察群)による効果を反復測定二元配置分散分析にて比較した。多重比較検定にはBonferroni法を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】実験参加に際し,対象者には文章および口頭にて十分な説明を実施し同意を得たものを対象とした。【結果】接地回数は学習時期および群による主効果が認められず(p=0.50,p=0.09),交互作用も認められなかった(p=0.44)。しかし,最長保持時間は群による主効果は認められなかったものの(p=0.25),学習時期による主効果(p<0.01)および交互作用が認められた(p<0.05)。多重比較の結果,自己観察群のみにおいてpre testと比較してpost test(p<0.05)およびretention test(p<0.01)において有意な増大が認められた。脳活動については,コントロール群では有意な活動を示した領域に統一性がみられず,他者観察群および自己観察群では多くの対象者において高次運動野および前頭前野領域の有意な活動が認められた。特に,自己観察群ではこれらの領域の限局した活動が認められた。【考察】本研究の結果,バランス学習において他者観察による観察学習効果ではなく,自己観察によるフィードバックによって有意な学習効果が認められた。これは,自己観察により自己の運動感覚情報との誤差を視覚的に明確に認識することができ,次の試行に対して修正した新たな自己運動イメージを形成することができたことによるものと考えられる。これを裏付けるように,課題試行時の脳活動では,他者観察群が運動イメージに関連した領域の広範な活性化を認めたのに対し,自己観察群ではこれらの限局した領域の活性化が認められていた。【理学療法学研究としての意義】健常成人を対象としたバランス学習において,簡便なビデオを用いた自己観察学習が有効である可能性を身体パフォーマンスおよび脳活動レベルにおいて見いだすことができた。今後,症例研究を進めることにより,臨床上有用なバランス学習における介入手段への発展に繋がると考える。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top