抄録
【はじめに、目的】足底圧中心点(COP)や合成床反力(FRF)を用いて簡易的に動作を力学的に解釈することは臨床介入の一助となると言われている.同時に足底が床面から受けるさまざまな力は身体運動に影響を及ぼす.よって足部を1 つの剛体と捉えてFRFを把握するのではなく,足部機能や形態を考慮しFRFを足底前部と足底後部で分けて把握することで身体運動をより詳細に考察できると考える.我々は臨床において足部前方部分と後方部分に生じる荷重の割合の変化により身体各関節の運動量に変化があることを観察している.過去に歩行時の前足部と後足部のFRFを計測した報告があるが,前足部と後足部それぞれの床反力と身体運動の関係について言及しているものは散見されない.そこで我々は足底前部と足底後部の荷重の割合の違いにより前屈動作時に肩峰の前方への移動量が足底後部よりも前部に荷重しているときに大きく,股関節の後方への移動量が小さいことを報告した.さらに足底前部の後方へのshear forceと身体の前方移動に相関が認められ,足底後部の前方へのshear forceと身体の後方移動に相関が認められた,ということを報告した.今回それに続き矢状面における足底前部の床反力(F-FRF),足底後部の床反力(H-FRF)と股関節モーメントの関係を足底前部と足底後部に荷重した2 条件間で比較したので報告する.【方法】対象は健康成人男性9 名とした.平均年齢27.2 ± 2.6 歳,体重68.6 ± 13.6kg,身長169.7 ± 3.2cmであった.測定機器は三次元動作分析解析装置VICON MX(VICON社製),床反力計(AMTI社製)を用いた.位置座標計測のためのマーカは臨床歩行分析研究会推奨の11 点マーカに準じて行った.サンプリング周波数を120Hzとした.床反力データは床反力計を左右足部でそれぞれ2 枚ずつ,足底前部と足底後部で踏み分けることで得た.本研究では足底前部を舟状骨と第5 中足骨骨底を結ぶ線分よりも前方とし,足底後部をその線分よりも後方と定義した.計測は被験者が十分な練習を行なった後で一定のリズムに合わせた前屈動作とした.被験者には足底全面が離地せず,膝関節が屈曲しない範囲で前屈動作を行なうように指示を与えた.計測は各被験者が足底前部荷重(FFL)と足底後部荷重(HFL)を交互にそれぞれ5 施行ずつ行なった.動作の開始と終了は肩峰マーカが下方に移動し始めた時点から最低位に位置するまでの間とした.各施行における股関節マーカの位置座標とF-FRFとH-FRFの前後成分を計測した.得られたデータより股関節モーメントを算出した.FFLとHFLにおける股関節モーメント,F-FRF,H-FRFに対してそれぞれ対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満として統計学的検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の対象者に対し文書により本研究の趣旨を説明し,それぞれの対象者から署名を頂くことで本研究に対する同意を確認した.【結果】動作終了時の股関節伸展モーメントはFFLでは4.09 ± 0.17N/kg/m,HFLでは4.00 ± 0.15N/kg/mであった.2 条件間に統計学的有意差はなかった(p=0.098).2 条件間でF-FRFの前後成分に有意差が認められ(p<0.01),H-FRFの前後成分に有意差が認められた(p<0.05).【考察】本研究の結果から股関節伸展モーメントにFFLとHFLに統計学的有意差はみられないもののFFLの方がHFLの条件よりも大きい傾向があった.過去に矢状面においてshear forceが変化することにより股関節位置の前後への移動が生じたという報告からshear forceが股関節モーメントに影響を及ぼす可能性があると考える.本計測ではFFLでは股関節伸展モーメントの増大がみられ,HFLでは股関節伸展モーメントの相対的な減少がみられたと考える.静止立位時には足部の骨構造上,F-FRFは後方,H-FRFは前方への成分を有したFRFを生じており,その合成床反力ベクトルが身体重心に向かう.F-FRFとH-FRFそれぞれの床反力前後方向成分の割合が変化しない限り身体を前方もしくは後方へ移動することができないため,足底に生じるshear forceが身体運動に影響を及ぼしていることを示唆する現象であると考える.【理学療法学研究としての意義】本研究は足部形態と身体運動の関係を明らかにするために行なうものである.足部全体としてではなく,足部形態に合わせて足底前部と足底後部に生じる床反力の組み合わせとして床反力を捉え,可視的な動作との関連性を確認することにより,足部形態と足部に生じている力,身体運動の関係を知ることができ,臨床活用可能であると考える.