理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-P-04
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ポスター発表
在宅医療にかかわる理学療法士が持つべき意識の再考
浅野 辰郎佐藤 美樹子丸川 陽子高木 章好
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抄録

【はじめに、目的】平成24年の医療・介護保険の同時改定では、在宅医療への取り組みがより強く意識され、今後、在宅でのリハビリテーション(以下、リハビリ)を必要とする患者の増加が予想される。在宅療養患者の増加は、理学療法士が在宅で難病患者や終末期の患者を多く担当する事を意味し、病院や施設で行う対応に加え、ターミナルケア、緩和ケアの正しい知識と理論を身につける必要がある。しかし、理学療法士がそれらを学ぶ機会は皆無であり、在宅の現場で働く理学療法士は、不安を抱えながら日々の業務にあたっているものと推測される。そこで、在宅医療とリハビリをテーマにした研修会を開催にするにあたり、研修前の受講者の在宅医療や緩和ケアに対する認識を明らかにする事を目的にアンケート調査を行い、在宅医療にかかわる理学療法士が持つべき意識について検討したので報告する。【対象と方法】対象は理学療法士養成施設同窓会主催の『在宅につながるリハビリテーション』の研修会に参加した理学療法士104名である。経験年数は1~12年(平均3.56年)。主たる業務形態は、急性期24名、回復期54名、生活支援期55名、その他・未記入9名であった。(重複あり)方法は、中島が示す難病ケアモデルの概念1)を基に、緩和医療・緩和ケアの概念、尊厳・QOLの概念、緩和医療と理学療法士との関連について、13の設問を紙面に提示した。設問に対し、VAS(Visual Analog Scale)に基づいて、そう思うを10点、そう思わないを0点として直線上にチェックを入れてもらい、単純集計し点数化した。各設問は、誤った内容を文章化し、誤った理解であるほど高得点になるように設定した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究にあたり、事前に趣旨と無記名であることを口頭で説明し、対象者には同意の場合のみ記入するよう十分な配慮を行い、調査を実施した。【結果】有効回収率は92.3%(96/104)であった。主な設問の平均点は次のとおりであった。緩和医療、緩和ケアの概念については、「緩和医療は主にがん患者の延命治療を目的とする」が4.1点、「緩和医療は麻薬を使うので、患者は錯乱や混乱に陥る事が多い」が4.4点、「緩和ケアは尊厳ある死を導くケア技術である」が6.2点、「緩和ケアは終末期ケアや延命治療後のケアを意味する」が5.1点と高得点を示した。QOLの項目は、「QOLが低いと人の尊厳は失われる」が3.9点であった。緩和医療とリハビリとの関連の項目は、「リハビリは緩和医療とは関係ない」が1.2点、「理学療法士は緩和医療に携わる知識や技術は特別必要ない」が0.8点であった。各結果は、業務形態や経験年数の違いによる大差はなかった。【考察】本研修会は、在宅医療や緩和ケアの研修を受け、在宅医療の最前線で活躍している理学療法士が講師となり、在宅医療の実際、緩和医療・緩和ケアの概念、QOLの概念、について講義を行い、さまざまな領域に従事する理学療法士に対して、在宅医療と理学療法士との関係について理解を深める内容であった。アンケートの結果から、業務形態や経験年数に関わらず、緩和医療・緩和ケア・QOLの概念を、誤って認識している者が多い事が明らかになった。緩和ケアの前提は「生」を尊重する事であり、そのことは、障害を持っても人間としての価値は何ら貶められることはないという、リハビリの理念と共通するものである。また、WHOが定める緩和ケアの概念にはQOLの向上が示されており、それは、理学療法士が治療の場面で念頭に置いている最上の理念である。緩和ケアで考えられるQOLは、「生命の価値」や「生きる意味」とは無関係であり、「QOLが低いから生きる意味がない」や「ただ生きている」という事では決してない。理学療法士をはじめとする医療従事者は、どんな状況下でも「よりよく生きる」事への意識を持ち続ける必要がある。多くの理学療法士がリハビリと緩和医療に関係があり、QOLの概念や緩和医療に関わる知識や技術が必要と認識しながらも、それらを学ぶ機会が無い事が結果に表れたと考える。理学療法士の職務は患者の人生そのものにかかわる。したがって、今後は、教育体制の充実と同時に、個々のセラピストが緩和ケアの知識やQOLの概念を持ち、難病や終末期患者以外の治療場面であっても、よりよい「生」に着目した理学療法を提供していく意識を持つ必要がある。【理学療法学研究としての意義】在宅医療が推進される中、理学療法士は、終末期や難病患者だけでなく、関わる全ての患者に対しての姿勢そのものを再度見つめ直す必要があり、本研究はその一助となった。1)中島 孝(2005) 難病のQOL研究で学んだこと JALSA.64:51-57

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© 2013 日本理学療法士協会
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