理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-02
会議情報

一般口述発表
振動刺激は多様かつ広汎な疼痛抑制効果をもたらす
杉枝 真衣冨澤 孝太鈴木 優太鳥山 結加松下 由佳山形 紀乃下 和弘城 由起子松原 貴子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに、目的】振動刺激は,主に筋緊張(Desmedt,1978)や痙縮(Matsumoto,2008)の抑制効果を目的とし臨床で利用されている物理療法の一種である。また,リラクセーション効果や鎮痛効果を謳った家庭用医療機器としても使用されている。しかし,振動刺激による疼痛抑制効果やその機序は明らかにされていない。これまでわれわれは,振動刺激による疼痛抑制効果に関して,低周波数振動刺激による局所の機械痛覚抑制の可能性について報告した(冨澤,2012)。振動刺激以外の鍼・熱刺激などでは広汎性侵害抑制調節(diffuse noxious inhibitory controls: DNIC)や下行性疼痛抑制系などの中枢性疼痛制御メカニズムを介した広汎性の疼痛抑制効果についての報告がなされている。しかし,振動刺激による広汎性の疼痛抑制効果については検討されていない。また,振動刺激による疼痛抑制効果を機械痛覚以外で検討した報告がなく,機械痛覚以外に痛覚抑制効果を有するかどうかは不明である。そこで本研究は,振動刺激による刺激同側および対側の機械痛覚または熱痛覚への影響を調べ,振動刺激による多様かつ広汎な疼痛抑制効果を検討した。【方法】対象は健常若年者62 名(男性30 名,女性32 名,平均年齢20.8 ± 0.7 歳)とし,右前腕に振動刺激を行う群(振動群:36 名)と行わない群(sham群:26 名)に無作為に振り分けた。振動群は,低周波数振動刺激装置(周波数8.5Hz,振幅5mm,HM-162,オムロン)を用いて右前腕に10 分間振動刺激を加え,sham群は,振動群と同部位に振動刺激装置の端子を当てるのみとした。両群とも刺激前後10 分間を安静とした。測定項目は,圧痛強度(pressure pain intensity: PPI)と熱痛覚強度(heat pain intensity: HPI)とし,刺激前,中,終了直後,10 分後に測定した。PPIは,デジタルプッシュプルゲージ(RX-20,AIKOH)を用いて,振動刺激部および対側の同部に,事前に調べた各個人の最大強度の80%で加圧した時の疼痛の程度を視覚的アナログスケール(visual analogue scale: VAS,0〜100mm)で測定した。HPIは,温冷型痛覚計(UDH-300,ユニークメディカル)を用いて,刺激部および対側の同部に,事前に調べた各個人の最大強度の90%で加熱した時の疼痛の程度をVASで測定した。なお,PPIとHPIの測定順は無作為とし,それぞれ別日同時間帯にあらためて実験を行い測定した。統計学的解析は,PPI,HPIの経時的変化の検討についてFriedman検定およびTukey-typeで多重比較検定を,振動群とsham群の比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者に研究内容,安全対策,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について説明し,同意を得たうえで実験を行った。また,実験に際しては安全対策を徹底し,実験データを含めた個人情報保護に努めた。【結果】PPIは刺激前と比較すると,振動群の刺激同側において刺激終了直後,10 分後に有意に低下し,さらに刺激対側においても刺激終了直後に有意に低下した。また,HPIは刺激前と比較すると,振動群の刺激同側および対側において刺激終了直後に有意に低下した。なお,sham群ではPPI,HPIともに変化は認められなかった。振動群とsham群の比較については,刺激同側のPPIにおいて,振動群はsham群に比べ刺激終了直後に有意に低値を示した。また,刺激同側のHPIにおいて,振動群はsham群に比べ刺激終了直後,10 分後に有意に低値を示した。【考察】振動刺激を片側前腕に加え,両側の機械痛覚または熱痛覚に及ぼす影響を検討した結果,両側のPPI,HPIともに刺激終了直後に低下したことから,機械痛覚および熱痛覚ともに抑制が認められた。よって,振動刺激は多様な痛覚受容器に影響を及ぼすことが示唆された。また,刺激同側のみならず対側にも同様の効果が認められたことから,振動刺激はDNICや下行性疼痛抑制系のような何らかの中枢神経系を介した広汎な疼痛抑制効果をもたらす可能性が示唆された。さらに,機械痛覚においては,刺激終了10 分後にも抑制効果が持続していたことから,振動刺激による疼痛抑制の持続効果の可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,振動刺激による多様かつ広汎な疼痛抑制効果を明らかにし,さらに疼痛抑制の持続効果の可能性をも見出した点で意義深い。本研究結果より,振動刺激は,臨床において疼痛管理に幅広く応用しうるものと期待できる。
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top