理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-02
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一般口述発表
非侵害的熱刺激の温度変化が疼痛抑制効果に及ぼす影響
下 和弘鈴木 優太杉枝 真衣鳥山 結加松下 由佳山形 紀乃城 由起子松原 貴子
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抄録

【はじめに、目的】広汎性侵害抑制調節(diffuse noxious inhibitory controls: DNIC)は物理的刺激による疼痛調整機序のひとつで,鎮痛を目的とする部位とは別の部位に与える侵害性の刺激がDNICのトリガーになると考えられている。熱刺激は45℃以上または15℃以下で侵害受容器の興奮を生じさせ,疼痛を引き起こすことが知られている。DNICに関する先行研究でも,このような侵害的な熱刺激を用いて広汎性の疼痛抑制が生じることが報告されている。しかし,侵害的な熱刺激では長時間の刺激曝露による熱傷の危険性があり,臨床への応用が困難である。一方,非侵害的な熱刺激は安全に使用できるが,非侵害的な熱刺激による広汎性の疼痛抑制を示した報告はほとんどない。刺激温度に関して,痛覚閾値に極めて近い範囲では侵害的,非侵害的な熱刺激の両者ともに疼痛抑制効果を有し,両者に差がないことが報告されている(Lautenbacher & Rollman, 1997)。このことから,DNICにおいて,主観的な疼痛経験は必須でなく,疼痛抑制が生じる可能性がうかがえる。温度受容器の活動性は周囲環境の温度により決定される静的活動性と,温度変化に左右される動的活動性に分けられることが知られている。そこで我々は,温度刺激を与える際に,温度変化をより大きくすることで疼痛抑制を誘起すると仮説をたて,非侵害的な温度の冷水,温水に連続暴露し温度変化刺激を与えることによって刺激遠隔部の疼痛が抑制されるかを調べ,非侵害的熱刺激の温度変化による広汎性の疼痛抑制効果について検討した。【方法】対象は健常成人18 名(平均年齢21.8 ± 0.9 歳)とした。温度変化刺激として,左前腕部を17℃の冷水に1 分間浸漬した後,直ちに42℃の温水に1 分間浸漬するcold-warm群(C-W群),不感温度である32℃の温水に1 分間浸漬した後,直ちに42℃の温水に1 分間浸漬するsham-warm群(S-W群)の2 群に無作為に振り分けた。測定項目は熱痛覚強度(heat pain intensity:HPI)とし,温冷型痛覚計(UDH-300,ユニークメディカル)を用いて,右頬部に50 〜55℃の熱刺激を加えたときの疼痛強度をnumerical rating scale(NRS:0 〜10)にて測定した。なお,HPIは温度変化刺激5 分前,刺激中(42℃の温水への浸漬中),刺激終了直後,5 分後に測定した。統計学的解析は,HPIの経時的変化の検討にFriedman検定およびTukey-type(Nemenyi)の多重比較検定を用い,C-W群とS-W群の比較にMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認を得た上で実施した。全対象に対して研究内容,安全対策,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について十分に説明し,同意を得たうえで行った。また,実験に際しては安全対策を徹底し,実験データを含めた個人情報保護に努めた。【結果】HPIは,C-W群において温度変化刺激前と比べて刺激中で有意に低下したが,S-W群では有意な変化を認めなかった。また,温度変化刺激前,中,直後,5 分後それぞれにおけるHPIでC-W群とS-W群に有意な差はなかった。【考察】17℃の冷水刺激直後に連続して42℃の温水刺激を与えた温度変化の大きいC-W群では,DNICに関する先行研究同様,温度変化刺激中に刺激遠隔部の疼痛抑制効果を認めた。一方,32℃の温水刺激直後に42℃の温水刺激を与えた温度変化の小さいS-W群では,疼痛抑制効果を認めなかった。つまり,非侵害的な熱刺激であっても,低温と高温を組み合わせて大きな温度変化を生じさせることによって広汎な疼痛抑制が起こりうることが示された。これは,温度受容器は周囲環境の絶対温度からだけでなく,温度変化によってインパルス発射頻度が変化する特徴を有することが影響しているのではないかと考えられる。同じ温度の熱刺激を温度刺激装置または温水により別の方法で与えた先行研究(Lautenbacher, 2002)によると,刺激方法により疼痛抑制効果に差があり,その効果の違いは温度刺激装置の端子(金属)と水では比熱が異なり,単位時間あたりの温度変化も異なることから,我々の結果と同様,温度変化の違いによって疼痛抑制効果の差が出現している可能性が考えられる。今後,臨床への応用にむけ,疼痛抑制効果を大きく,かつ長期に持続させることが必要であり,熱刺激における温度変化の量だけでなく,速度を考慮した検討が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】本研究では,非侵害的な熱刺激の温度変化により刺激遠隔部の疼痛抑制が図れる可能性を示した。臨床において多用される温熱療法への応用が期待される。

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© 2013 日本理学療法士協会
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