理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-10
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ポスター発表
健常者における肩関節運動方向の違いが烏口肩峰靱帯の上方歪み量に及ぼす影響
古谷 英孝見供 翔吉田 昂広朝重 信吾竹井 仁
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抄録
【目的】肩峰下インピンジメント症候群(Subacromial Impingement Syndrome :以下SIS)とは肩関節周囲筋のインバランスによって,上腕骨頭が烏口肩峰靭帯(Coracoacromial Ligament:以下CAL)に衝突することで痛みを生じる疾病の総称である.上腕骨骨頭がCALに衝突すると,CALが弧を描くように上方へ歪む.この現象は,痛みを伴わない正常な肩関節でも生じる現象である.Hungら(2010)は超音波診断装置を使用しCALを観察したところ,SIS患者では健常者と比較し,肩関節90 度外転位内外旋0 度位におけるCAL上方歪み量が増加したと報告している.CALが上方に歪んでいる状態は,肩峰下組織が圧縮されストレスを受けていることを表す.また,Yanaiら(2006)の報告では,CAL上方歪み量を異なる肩関節運動方向(肩関節90 度外転位最大外旋位,90 度外転位最大内旋位,90 度屈曲位最大外旋位,90 度屈曲位最大内旋位)で比較したところ,肩関節90 度外転位最大内旋位と90 度屈曲位最大内旋位において歪み量が増加することが確認されている.しかし,他の運動方向におけるCAL上方歪み量についての研究は成されていない.CALが上方に歪む運動方向を明らかにすることは,SIS患者に対する治療を展開していく上で,臨床的意義が大きいと考える.よって,今回の研究の目的は,CALが上方に歪む肩関節の運動方向を明らかにすることとした.【方法】対象は肩関節に整形外科学的既往の無い健常成人男性10 名20 肢とした.被験者の平均年齢(範囲)は27.4(22-34)歳,身長及び体重の平均値(標準偏差)は172.2(3.0)cm,64.7(6.3)kg であった.被験者には,椅子坐位にて体幹が固定され,かつ肩甲骨の動きが阻害されない板を作成し,体幹をベルトで固定した.後に,7 つの肩関節の運動課題を自動運動にて行わせた.運動課題は,1:下垂位内外旋0 度位,2:下垂位内外旋0 度位から最大内旋位,3:下垂位内外旋0 度位から最大外旋位,4:下垂位内外旋0 度位から最大伸展位,5:90 度外転位90 度外旋位から最大内旋位,6:90 度外転位内外旋0 度位から最大水平伸展位,7:90 度屈曲位内外旋0 度位から最大内旋位とした.CAL上方歪み量の測定には超音波診断装置(HITACHI EUB-7500)を用いた.烏口突起と肩峰間のCAL線維方向に対してプローブを平行にあて,各課題終了肢位にて静止画を抽出した.抽出した画像を画像解析ソフト(米国国立衛生研究所,Image J Ver.1.42)を用い,烏口突起中央と肩峰中央を結ぶ直線とCALの弧が最大となる点の靭帯内壁との距離をCAL上方歪み量[mm]と定義し変数とした.統計解析はIBM SPSS Statistics Ver.20 を用い,CAL上方歪み量を従属変数,各運動方向を独立変数とした反復測定による一元配置分散分析ならびに多重比較検定(Tukey HSD法)を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は筆頭演者が所属する大学院の研究安全倫理委員会の承認(承認番号:11058)を得た上で,研究参加者に対しては,事前に研究趣旨について説明した後,書面での同意を得て実験を行った.【結果】各運動課題のCAL上方歪み量の平均値(標準偏差)[mm]は,課題1:0.0(0.0),課題2:0.0(0.0),課題3:0.0(0.0),課題4:0.0(0.0),課題5:2.1(0.6),課題6:2.1(0.5),課題7:1.5(0.7)であった.統計解析の結果,課題1 から課題4 と比較して,課題5,課題6,課題7 においてCALは有意に上方に歪んでいた.また,課題7 より課題5,課題6 において有意に歪み量が大きい結果となった.【考察】今回,下垂位での内旋,外旋,伸展ではCALの上方への歪みは確認されず,先行研究で述べられた90 度屈曲位および90度外転位での最大内旋位に加えて,最大水平伸展位で上方への歪みが確認できた.Yanaiら(2006)は上腕骨大結節がCAL に接近する運動方向で,CALが上方に歪むと報告している.最大水平伸展位は運動課題開始肢位が大結節とCALに接近している肢位であること,上腕骨骨頭が関節窩に対して凸の法則で前方へ滑ること,肩関節前面には腱板疎部があり更に大結節がCALに接近しやすいことで上方に歪んだと考える.Hughesら(2012)は大結節がCALに接近すると,大結節により棘上筋が圧縮されストレスを受けるとしている.今回の結果から,特に,90 度外転位最大内旋位,最大水平伸展位において歪み量が増加したことから,棘上筋にストレスが加わりやすい運動方向であることが示された.【理学療法学研究としての意義】今回,超音波画像診断装置を用い,CALが上方に歪む肩関節の運動方向が確認できた.本研究の結果を踏まえると,CALが上方に歪む肩関節運動方向を考慮し,SIS患者に対して炎症症状を増強させないエクササイズの選択や日常生活動作を指導することは,早期改善を目的として治療展開していく上での科学的根拠の一助になると考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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