2025 年 31 巻 p. 19-24
近年の河川管理においては,国土交通省提言の「生物の生息・生育・繁殖の場」に関する定量的な目標設定が求められている.しかし,汽水域では潮汐などの影響や長期的な河床変動等を考慮する必要があり,実務における定量目標設定や環境評価の手法が確立されていない.本研究では,荒川下流における河道掘削の汽水環境への影響を評価するため,iRICの環境評価ソルバであるEvaTRiP Proを活用し,汽水環境を定量評価するツール「汽水環境評価ツール」を開発した.本ツールは,汽水生物が選好する相対潮汐地盤高を設定することで,対象生物の生育・生息適地分布の予測を可能にした.予測の再現性を検証した結果,全正答率96%という精度が得られた.本ツールを用いて河道掘削の影響評価を行った結果,ヨシの生育適地は掘削により一時的に減少するものの,将来的には現況よりも増加すること,クロベンケイガニの生息適地や干潟(潮間帯)面積は河道掘削により増加し,将来的にも維持されることが予測され,将来的に良好な汽水環境の維持・創出につながると評価された.