抄録
【はじめに】医学分野におけるstiffnessは関節の動きにくさや運動の制限などを指し、筋においては硬さや緊張を示す。stiffnessはdynamic stiffnessとpassive stiffnessに分類され、このうちpassive stiffnessについてはstretchingにより低下することが報告されている。しかし臨床現場で多用される他動的ROM練習によるpassive stiffnessへの効果に関する報告は散見される程度である。本研究ではpassive stiffnessの指標としてペンドラムテスト(以下PDT)時の下腿落下角加速度を用い、低速・高速2 種類の膝関節等速他動運動課題がpassive stiffnessに与える影響と運動速度による違いを検討した。【方法】対象は健常男性20 名とした。PDT時の下腿自由落下時の落下加速度を2 か所の加速度計(共和電業社製)にて計測した。加速度計は感度方向が下腿長軸方向と一致するように支持棒に貼付し、下腿に固定した。加速度計1 と2 の間の距離は26.5cmとした。等速他動運動課題はCybex(Lumex社製)を使用し、CPMモードにて30°/sec(以下低速)、500°/sec(以下高速)の運動速度でそれぞれ40 回の等速膝屈伸他動運動を行い、運動範囲は膝伸展0°から屈曲120°とした。他動運動課題前後にPDTを実施し、膝関節屈曲30°位からの下腿自由落下時の加速度を計測した。得られた2 部位の加速度データは計算式を用い角加速度に変換した。得られた角加速度波形の最初の波形の最大値(以下FAAC)、2 番目の波形の最大値(以下SAAC)、3 番目の波形の最大値(以下TAAC)をpassive stiffnessの指標とした。また、低速課題と高速課題間でFAAC、SAAC、TAACを比較するためにそれぞれの他動運動課題前後比(課題後/課題前× 100)を算出した。統計分析としてpaired t testを用い、有意水準はいずれも5%未満とした。【説明と同意】全被験者に対し本研究の目的、方法を説明し研究参加への同意を得た。尚、本実験は金沢大学医学倫理委員会の承認を受けて行った。【結果】PDTによる落下角加速度においてFAACは低速課題では課題前7.4 ± 2.1rad/ss、課題後7.8 ± 2.5rad/ss、高速課題では課題前7.1 ± 2.0rad/ss、課題後7.7 ± 1.7rad/ssであった。SAACは低速課題では課題前5.5 ± 1.8rad/ss、課題後5.9 ± 1.8rad/ss、高速課題では課題前5.3±2.0rad/ss、課題後5.9±1.4rad/ssであった。TAACは低速課題では課題前4.1±1.4rad/ss、課題後4.3 ± 1.5rad/ss、高速課題では課題前3.9 ± 1.7rad/ss、課題後4.4 ± 1.4rad/ssであり、高速課題で有意差を認めた(p<0.05)。運動課題の前後比はFAAC、SAAC、TAACそれぞれにおいて低速課題では106.1 ± 17.1%、110.0 ± 17.8%、105.1 ± 24.1%、高速課題では111.5 ± 22.5%、120.0 ± 32.6%、124.7 ± 32.6%となり、TAACで高速課題が有意に大きかった(p<0.05)。【考察】低速課題後は5 〜10%の角加速度の増加であったのに対し高速課題後は10 〜24%の角加速度の増加がみられた。このことより高速他動運動の方がpassive stiffnessを低下させる可能性が示唆された。これは運動速度が速いほどせん断応力は大きいとされていることが原因として考えられた。FAAC、SAACにおいては高速と低速の課題間で増加傾向を認めたのみの結果であったことについては、落下初期(FAAC・SAAC)は角加速度、変位量ともに大きいため、下腿長や重量さらには大腿部の筋量などの個体間の違いがより強く影響したためと考えられた。今後は補正を加えたうえでさらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】他動運動がpassive stiffnessに与える影響について検討された報告は少ない。対象疾患の制限はあるものの、伸張反射を誘発しない程度の早い運動速度の方がROM制限改善に効果的である可能性が示唆された。