理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: F-P-04
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ポスター発表
終末期がん患者に対する神経筋電気刺激の効果
~症例報告~
千葉 達矢溝畑 日出昌相澤 智紀
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キーワード: , 終末期, 神経筋電気刺激
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抄録
【はじめに、目的】終末期がん患者は身体機能の低下や疲労を呈しやすく、日常生活動作能力や生活の質(QOL)を低下させる。しかし、終末期がん患者は廃用や嘔気、疼痛、倦怠感等の影響により運動療法等の積極的なリハビリテーション介入が行えないことも少なくない。近年、神経筋電気刺激(NMES)を心疾患や呼吸器疾患患者に対し実施し、身体へ大きな負担をかけることなく筋力を増強させるとの報告がされている。NMESの効果は筋力増強効果などの機能面の回復やQOLを改善させるといった報告がされているが、がん患者を対象に行った治療の報告は散見される程度である。今回は終末期がん患者一症例に対しNMESを行い、その効果を検証した。【方法】症例は50代男性で、X年に左大腿悪性軟部腫瘍を発症し肺、骨に転移がみられた。切除術、放射線療法、化学療法を行ったが、治療困難となったため、X+10年に当院緩和ケア病棟入院となった。日常生活は自室トイレへの歩行以外ほとんどの時間をベッド上で過ごされPerformance Statusは3、歩行は固定型歩行器にて見守りレベルで、大腿四頭筋のmanual muscle test(MMT)は右4/左2、膝伸展関節可動域は右0/左-20°であった。左鼠径部のリンパ節郭清を行っているため左下肢にリンパ浮腫が存在し、周径は膝蓋骨上縁から近位7.5cmが右44/左51.5cm、膝蓋骨上縁が右35/左50.5cm、膝蓋骨上縁から遠位7.5cmが右35/左45cmであった。 治療は筋力増強練習、関節可動域練習に加え、NMESを4週間行った。電気刺激条件は二相性対称性パルス波、周波数80pps、パルス持続時間300µsec、10sec on/30sec off とし、両大腿四頭筋に患者が耐えられる最大強度で実施した。評価項目は下肢の周径、大腿四頭筋のMMT、QOLの評価としてDistress-Activities score (IDA score)、きつさ・痛み・だるさをnumeric rating scaleを使用して、介入前と1週間ごとに測定した。また、最大歩行距離と歩行後の修正Borg scale、ゴニオメーターを使用した端座位での自動運動による膝伸展関節可動域測定(膝伸展ROM)、皮膚状態の視診・触診を介入前後で測定した。【倫理的配慮、説明と同意】症例には本研究の概要および侵襲、公表の有無、個人情報の取り扱いについて説明し、同意を得てから治療介入を実施した。【結果】開始時は左大腿四頭筋のMMTが2レベルであったが、終了時は3レベルに改善した。また、膝伸展ROMも-30°から-20°に改善した。内省報告では「気持ちいい」「足が上がるようになった」「歩行練習を始めてみたい」といった報告が聞かれた。その他の評価項目に改善点はみられなかったが、著明に悪化した項目もなかった。また、有害事象は発生しなかった。【考察】Matthew(2009)は肺がん患者に対しNMESを行い、大腿四頭筋力を21%改善させたと述べている。今回、左の大腿四頭筋のMMTが2から3レベルに変化したことや膝伸展ROMが増大したことより、NMESによる筋力増強効果が生じた可能性が示唆された。IDA scoreは変化がなかったが、内省報告は前向きな発言が聞かれ、患者の精神面に対してもよい影響を与えた可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】終末期のがん患者は積極的な理学療法が行えない場合があるが、NMESは身体への負担が少ない治療でありながら、身体・精神機能を維持・改善させる可能性があり理学療法士が行う治療選択の一つとなる可能性があると考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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