理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-05
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ポスター発表
片麻痺下肢に対する新しい表面電極型機能的電気刺激装置(NESS L300®)の使用経験
畠山 和利松永 俊樹佐藤 峰善千田 聡明渡邉 基起島田 洋一
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抄録
【はじめに】機能的電気刺激(functional electrical stimulation; FES)は,脳卒中や脊髄損傷などの上位ニューロン障害による運動麻痺の機能を再建する方法である.FESによる脳卒中片麻痺歩行は,足底部に貼り付けた圧センサなどから踵接地や踵離地を感知し,総腓骨神経などの刺激で遊脚期の足関節背屈を制御している.われわれは,これまで下垂足歩行再建用FES刺激装置Akita Heel Sensor System(AHSS)を開発し,臨床応用を重ねてきた.AHSSは,ハンドスイッチ・刺激装置・電極コネクタと踵センサからなる本体と総腓骨神経近傍に埋め込まれる経皮埋め込み電極およびセンサを取り付けるためのコンパクトな踵装具で構成されている.近年,片麻痺内反尖足や下垂足による歩行障害を対象とする新しい表面電極型FES装置NESS L300®が開発された.NESS L300®は表面電極型FES装置で,下腿近位部に装着して刺激するFS cuff,刺激モードなどを設定するコントロールユニット,足部に装着するIntelli-sense gait senorから構成される.歩行時には,踵に取り付けたIntelli-sense gait sensorが遊脚期を検知し,ワイヤレス通信によりFES刺激を行って足背屈させる.当施設では本邦で最初にNESS L300®を導入し,基礎・臨床データを積み重ねてきた.今回,NESS L300®による慢性期脳卒中片麻痺者の内反尖足歩行障害改善効果を検討したので報告する.【方法】脳卒中慢性期片麻痺者を対象にNESS L300®を装着して歩行再建を行い,効果を検証した.対象は慢性期脳卒中片麻痺10例(男性2例,女性8例)で,平均年齢58歳.麻痺側は右4例,左6例で下肢のBrunnstrom stageはⅢ2例,Ⅳ7例,Ⅴ1例であった.全例短下肢装具を使用して歩行が可能で発症からFES開始までの期間は平均6.1年だった. 評価は,被験者によるNESS L300®使用に関する満足度,自力による装着の可否,刺激に対する神経筋の反応は良好に得られるかを検証し,歩行再建効果を評価するため短下肢装具歩行(FES OFF)とNESS L300®歩行(FES ON)の10m歩行試験をランダムに実施した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の基で実施した.実施前に対象者へ本研究の趣旨を十分説明し,書面にて同意を得た. 【結果】被験者によるNESS L300®使用で全例とも満足度は非常に高く,自力で装着することが可能であった.10m歩行試験では,歩行速度は短下肢装具歩行(FES OFF)で平均0.66m/s,NESS L300®歩行(FES ON)で平均0.73m/sとFES歩行で有意に速くなり,歩数は短下肢装具歩行(FES OFF)で平均23歩,NESS L300®歩行(FES ON)で平均20歩とFES歩行で有意に少なくなり,歩行能力が向上した.【考察】FESの片麻痺内反尖足歩行に対する効果に関して,Burridgeらは歩行速度の改善,歩行時の負荷の減少,安定性・対称性の改善などを報告している.NESS L300®は,今回の検討によるFES効果としての歩行能力向上のほか,表面電極刺激により脳卒中発症後早期から適応が可能で,急性期には治療的電気刺激としての随意性促通・痙縮改善,筋萎縮進行予防改善・筋力改善,関節可動域改善などの効果も期待できる.また,立ち上がりや立位バランス保持時など前脛骨筋の収縮が必要な時に,コントロールユニットを用いて任意に筋収縮させることが可能なため,様々な治療場面で促通効果を期待できる.今後,更に治療効果の検討を進めたい.【理学療法学研究としての意義】NESS L300®は片麻痺患者においても簡単に装着,操作が可能で,歩行能力の向上が期待できる.また治療場面で任意に足関節背屈筋の筋収縮を得ることが出来るため,理学療法を行う上で非常に有用である.
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© 2013 日本理学療法士協会
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