理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-S-03
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セレクション口述発表
急性期脳卒中片麻痺患者における筋厚の経時的変化
阿部 千恵村上 賢一藤澤 宏幸
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キーワード: 片麻痺, 筋厚, 筋萎縮
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抄録
【はじめに、目的】脳卒中片麻痺患者の多くは、麻痺側上下肢に筋萎縮が生じ、運動再建において大きな障壁となっている。これまで、ある一定期間の筋萎縮に対する運動療法の効果について報告されているが、経時的変化についての報告はわずかである。近藤ら(1997)は、CT撮影を用いて筋断面積の変化を検討し、発症後2週間目に既に減少が認められた事を報告している。しかしながら、発症直後から経時的に筋萎縮の程度を検討した報告はいまのところ見当たらない。そこで今回、発症直後から経時的に筋厚を測定し、その変化について検証を行った。【方法】対象は発症後24時間以内の初発脳卒中片麻痺患者9名(男性6名、女性3名、平均年齢71.8±8.6歳)で、下肢に整形疾患の既往歴のない患者とした。内訳は脳梗塞7名、脳出血2名であった。下肢運動麻痺はBrunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)にて評価し、2が5名、3が3名、4が1名(1病日目)であった。筋萎縮の指標は、筋厚と周径を用いた。筋厚の測定部位(GE Medical systemsのLOGIQ α 100 MP超音波測定器)は、外側広筋(膝関節裂隙と大転子を結んだ線の50%位置:以下、VL筋厚)、前脛骨筋(膝関節裂隙と外果を結んだ線の近位30%位置:以下、TA筋厚)とした。また、周径については、大腿周径(膝関節裂隙から5cm、10cm位置:以下大腿周径5cm、大腿周径10cm)及び下腿最大周径を測定した。測定肢位は、病期を考慮し全て背臥位とした。そして測定値は、1病日目からの変化量を算出し用いた。筋厚計測の検者内精度(偶然誤差)は、10回の測定を行い、範囲の1/2と規定した。測定時期は、1~7病日、14病日、21病日、および28病日であった。統計学的分析として、一元配置分散分析を、病日と測定項目(VL筋厚、TA筋厚、大腿周径5cm、大腿周径10cm、下腿最大周径)の独立多群の差の検定に用い、事後検定にTukey法を行った。一方、対応のあるt検定は非麻痺側と麻痺側の関連2群の差の検定に用いた。統計学的有意水準は5%とした。統計処理には統計処理ソフトR(2.15.2)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】測定に際して被検者および被検者家族に対し、個人情報の保護に関する留意や本検査・測定について文章にて説明し、書面にて同意を得た。加えて、本研究は東北文化学園大学倫理委員会(承認番号;文大倫第11-04号)にて承認を得ている。【結果】筋厚の偶然誤差は、VL0.5mm、TA1.5mmであった。VLとTAの偶然誤差以上の筋厚減少は、非麻痺側および麻痺側の両側で生じていた。筋厚減少が認められた時期は、非麻痺側VLにおいて2病日目44.4%、3病日目77.8%、7病日目88.9%、麻痺側VLにおいて2病日目33.3%、3病日目44.4%、7病日目88.9%、非麻痺側TAにおいて、3病日目44.4%、7病日目77.8%、麻痺側TAにおいて、2病日目22.2%、3病日目33.3%、7病日目88.9%であった。分散分析の結果、VL筋厚(両側)、TA筋厚(両側)、下腿最大周径(両側)において筋厚の変化が認められ、非麻痺側VL筋厚14病日目、麻痺側VL筋厚21日目、両側TA筋厚14病日目、両側下腿最大周径14日目から有意に低下した。非麻痺側と麻痺側の下腿最大周径・VL筋厚・TA筋厚の間に有意差は認められなかった。【考察】本研究の結果、非麻痺側および麻痺側ともに筋厚(VL・TA)・下腿最大周径の低下が認められ、筋萎縮が生じていると考えられた。脳卒中片麻痺患者における筋萎縮は麻痺側に着目されることが多いが、両側ともに筋萎縮が生じていたことは非常に興味深い結果であった。非麻痺側の筋萎縮の生じる時期は麻痺側と同時期(2~3病日)であった。この結果は、急性期治療における安静臥床により、廃用症候群を生じたためと推察される。さらに興味深かったのは、筋萎縮の変化量について非麻痺側と麻痺側に有意差が認められなかったことである。我々は、麻痺側が非麻痺側より強い筋萎縮を生じると仮説を立てていたが、対象の運動麻痺等の症状が重度であり安静臥床を強いられたため、非麻痺側も不活動の影響により麻痺側と同程度の筋萎縮を生じたと思われた。我々は積極的な早期離床に取り組んでいるが、2~3病日にて筋萎縮が両側に生じていたことは、改めて廃用症候群予防の重要性が示唆されたものと捉えている。ただし、脳卒中治療においてはリスク管理が重要であり、その範疇での介入法の工夫が求められるであろう。【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者の筋萎縮は2~3病日で生じ、それは非麻痺側へも及んでいる。このことは、急性期における更なる積極的な理学療法介入を示唆するものと捉えている。加えて、筋萎縮の経過について発症直後から報告したものは知る限りではなく、貴重なデータと考えている。
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© 2013 日本理学療法士協会
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